ヒロトはゆっくりと風丸の腕を握って、自らの口元に持っていった。
口元近くに手が行くと、またゆっくりと指を一本、人差し指だけを残して他の指を折り畳むと、その残りの人差し指を唇の中にそっと銜える。
人差し指はねっとりと唾液に包まれる。口の中は思った以上に温かい。

『指綺麗だよね』

ヒロトとの会話で1番印象に残っている台詞だった。いつ、どこで、なんてことは覚えてないけれど、その台詞だけは印象的で記憶されている。
髪の毛綺麗だね、顔が綺麗だね、とか不本意ながらも色々と褒められることは多いけれども、指を褒められることは無かった。

『そんなに俺の指銜えるの楽しいか?』
『楽しいというか美味しいよ』

どこかうきうきとしながら指を銜えるヒロトを不思議に思って風丸が聞くと、ヒロトは唇から指を抜き取って答える。
ヒロトの唇から出て来た指は、ヒロトの唾液に塗れてなまめかしく透明な膜を纏って光っていた。その人差し指だけ、自分の指では無いみたいに思えた。

『味、しないだろ?』
『するよ、風丸くんの味。とても美味しい』

ヒロトは、また指を銜える。
また唇に指が吸い込まれていった。
薄い綺麗な唇に囲まれて、自分の指が吸われたり噛まれたり舐められたり。それは、とてつもなく官能的で厭らしく美しい。
もう一度口から指を出すと、ヒロトの綺麗な桃色の舌が、ちろちろと風丸の指を舐めていく。くすぐったいような背筋がゾクゾクするようなもどかしい感覚。
味なんてしないはずなのに、本当に美味しそうにヒロトは風丸の指を舐める。

『本当に味するのか?』
『疑うなら俺の指舐めてみる?』
『え、』

風丸が何かを言う前に、ヒロトは自分の白い指を風丸の口内に差し込む。
『俺の指、美味しいでしょ?』とヒロトは言って満足げに微笑んだ。その唇は、先程まで指を舐めていたからか、自らの唾液でてかてかと光っている。
好奇心でヒロトの指を舌先で舐めてみると甘い、気がする。
『ん、』と、曖昧に返事を返してヒロトの手を掴んで指を口内から取り出すと、指ではなくて唇を口に当てる。触れるだけのキスよりも、少しだけ激しい啄むようなキス。

『けど、こっちの方が俺は好きかな』
『意外に気障だよね、風丸くんって』

苦笑しながらヒロトは言って、また指に優しく噛み付いた。








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