ちょっと成長 帰り道に親子とすれ違った。 母親も若くて、子供もやっと歩き出せたくらいの年齢で小さかった。はいはいから解放された両手は、母親の手をしっかりと握りしめていた。母親も名前を呼びかけながら、話しかけていた。子供の口から出る言葉はまだ舌っ足らずで抽象的なものもおおいけれど、話してくれるだけで満足なのか笑顔を絶やさなかった。 「かわいいな」 彼の独り言を聞き逃さなかった。 意外ですね、と言っても彼は怪訝そうにもせずに、そうか?と言ってくるだけだった。 霧野のイメージでは、南沢は子供が嫌いだと勝手に決めつけられていた。五月蠅いのとか、計画通りに行動してくれない子供を彼が好きだとは意外だった。 そのまま思ったことを、多少改変しなららも南沢に霧野が伝えると「確かに、そんな理由で昔は嫌いだったな」と意味深な発言を返した。昔は、ということは昔は嫌いだったのに今は好きになった仮定が気になった。 「どうして好きになったんですか?」 「質問ばかりするなよ」 「好きな人のことが気になるのは変なことですか」 そう言われてしまえば、南沢は黙るしかない。 まだ後ろでは、子供の声が聞こえていた。「子供が欲しいと思ったら、嫌いになれなくなった」何を考えているのかつかめない曖昧な表情で南沢はそれだけを告げた。 勿論、子供が産めないことは分かっているけれど、やっぱり欲しいと思ったことは一度くらいはあった。別に女になりたいだとか思ったわけではないけれど、何も生まれない関係というのは不安定で脆いから。 いつの間にか女々しくなっていた自分に笑いたい、もしくは誰かに笑って欲しい。 こんな思いを霧野に言ったら彼は何も言わないだろう。自分たちにはそんな重苦しい関係や思いは不必要なのだ。 「今日は寒いですね」 ほらやっぱり、霧野は話題を変えてきた。そんな所が好きでもある、何も気にしないで良い。そうだな、だから早く部屋に帰りたい。南沢は話題を変えられたことを気にもせずにそう返事した。 季節は確かに秋から冬になりかけていた。今だってコートにストールという防寒をばっちりとしている。2人で冬を迎えるのは何度目かになったが、去年と変わるところは多くはない。去年と変わらずに2人だ。その2人に子供が増えることは永遠にない。 |