※成長パロ




唐突に靴が欲しくなって、財布だけを持って家を飛び出した。今日は黒のスニーカーを履いた。ブランドとか無名メーカーとか気にしないし、お気に入りの店も無いから街をぶらぶらと歩き回って、適当に店に入る。好きな靴は高くても、財布に金が有れば買う。
外装で気に入った店に入ると、入った途端に視界一杯に並ぶ靴の壁。靴が好きだ。
落ち着いた雰囲気の店内を剣城は散策する。カラフルな物からモノクロなもの色々な形、色々な形の靴を色々な人が履くけれどその中から世界で一番良い靴を履きたいのだ。
目に入った黒い靴を手に取った。形は好きだけどどこか好きになれないで、元の場所においた。
セッティングされている椅子に座って一人の女が試し履きをしていた。その女の人には合ってないし靴自体も好きになれないからバツ。こういう光景を見たら買いたいという意欲が失せてしまって、剣城は店を出た。
店を出たら人、脚、靴が無数にある。思わず目線は足下を追った。




「珍しいね、剣城がサンダルなんて」

声のする方を見れば、バイトが終わったのか松風がエプロンを外しながら部屋に入ってきていた。自分でも忘れていたけれど今日はサンダルだ。「昨日靴買いに行ったんだけどさ、ってこんな話興味ないだろ」そういって顔を見れば、あからさまに松風は焦った。え、いや、そんなこと、とかどもりながら否定してくるところは分かりやすくて嫌いじゃない。
「俺も男だから分かるけど、他人の買い物の話とか興味ない」と剣城が言って話を終わろうと、座っていた向きを松風から正面に戻そうとしたけれど、また「そんなこと無いよ」と絡んできたから、松風にまた視線と身体を向ける。

「じゃあ、松風はどんな靴が好きなんだ?」

別に他人の靴の趣味はどうだって良い。女子のモテかわコーデとか流行物とかくだらないと思うし、自分が好きな物を履くだけだ。

「・・・剣城の靴って、恐いよね」

こいつバツ。
流石にバカでも失言したのかと気付いて、えっと、その、を言い続けている。そんな松風を横目に、剣城は椅子から立ち上がった。「別に悪気無いだろうから馴れてるから怒らねえよ。俺、屋上にいるからなにかあったら電話鳴らせ」それだけを言って部屋を出て行った。
屋上から眺める下には沢山人がいて、別々の靴を履いている。男も女も好きだな、と呟けばエッと後ろから驚いた声がした。振り向けばあいつがいた。

「別に性癖の話じゃない。つか、何だよ」
「怒らせたかなって思って・・・」
「別に怒ってないって言っただろ。てか、松風、俺のこと苦手だろ?」

そう言うと、全力で首を縦に振った。嘘をつけない人間だから、多分本心なんだろう。「いつも、怯えてるだろ・・・俺、恐い靴履いてるらしいし」と、そう言えば、松風は申し訳なさそうに頭を垂れた。

「全ての人間に好かれる靴って何だ?」
「そう言うこと、俺はわからないです・・・」

屋上は風が強かった。風に遊ばれる髪を抑えながら、じゃあお前はどんな靴が好きだ?とさっきと同じ質問をした。流石に同じ答えは返ってこないだろうからと、ちゃんとした答えが返ってくるのを待つ。剣城の靴、かな。最後が少し疑問系だったけれど、そう言った。
「恐いけど、凄くオシャレだと思う。そのサンダルも、剣城が履くだけでオシャレに見えるよ」そう言われた瞬間に、ただの安っぽいサンダルが好きな靴になった。

























京天か天京かわかりません。
ヤマシタ/トモコさんの[HER]という漫画の話をかなり大幅に変えてます。一応パロです。

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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