高3霧野と高2狩屋


明日会えないかとメールが着たのは昨日。普通ならば殆どの人間は祖母の田舎などに帰郷しているであろう12月30日。生憎というか皮肉にも帰る家はないから二言で承諾を書いて送信ボタンを狩谷は押した。それが昨日で、今は今日大晦日。
二言返事のあとに送られてきた集合場所の公園のベンチに座っいると呼び出した霧野先輩がゆっくりと歩いていた。暖かそうな黒いコートと赤チェック柄マフラーが似合っている。私服姿を見たのは久々だった。

「久しぶり、あけましておめでとう」
「まだ明けてませんよ。先輩、帰郷してなかったんですね」
「受験生だから休みが一日しか取れなかったんだ。一日なら帰郷するより、狩谷に会う方が良いだろ」
「俺は、先輩なんかに会いたくなかったですよ。」

なんで今年最後に会うのが先輩なんだろうな、最悪。そう悪態をいう狩屋の隣に霧野は腰掛けた。ベンチはひんやりと冷たい。
久しぶりに見た狩屋は髪も身長も伸びて大人びているように思えた。受験生になってから会う時間が作れないで中々会えてないから、そう思うのも当たり前なのかもしれない。会えなくても気を遣っているのか狩屋からメールや遊びたいなど催促されることは一度もなかった。
勉強の調子はどうですか?落ちそうですか?なんてへらへら聞いてくる狩屋は姿は多少変わっているが、性格はちっとも変わってないで捻くれたまま。

「残念ながら合格圏内だよ。B判定だからぎりぎりだけどな」
「なんだ、落ちないんですね〜落ちたら、また此処に住むから会えるのにな〜俺の為に落ちてくださいよ」
「縁起でもないことを言うな。受かっても、たまには会いに来るさ」

たまには、か。呟きそうになったのを狩屋はぎりぎり押し殺す。
仕方ないと割り切っても、気の性だと思いたくても、僅かに微かに寂しいと思ってしまう自分を殴りたい。代わりに拳を少し強く握りしめる。皮膚に爪が食い込んだが気にしていられない、気を抜いたら会いたく寂しいなんてセンチメンタルで乙女チックな言葉を吐いてしまいそうだ、そんな柄じゃない。
「そんな寂しそうな顔するな」なんて先輩が言うから「誰が、先輩こそ寂しそうな顔しないでくださいよ。重いですから」なんてまた悪態を吐いてしまう自分が嫌だ。

「重いなぁ…」

思わず反復してしまった。吐息も多く混じっていて空気が白に染まる。苦笑しながら霧野は立ち上がる。何処に行くのかと狩屋が聞いてきたから「未来へ」と、冗談で返せば怪訝そうな表情になったから、嘘だと言えば「分かってますよ」と苛立った声で返される。
寒いから動きたくないのに、と心で愚痴愚痴言いながらも狩屋も立ち上がった。
公園の時計を見れば後10分で今年も終わってしまう。来年なんて来なければ良いのに。受験生になるのも嫌だ、先輩と離れるのも嫌だ。

「あと10分で今年も終わりだな。そろそろ初詣に行くか」
「初詣なんてめんどくさいから行かないで良いじゃないですか。人混みにわざわざ入っていくなんて嫌です」
「この公園で来年を迎えるつもりか?」
「そのつもり」

突っぱねる声色に霧野は肩を竦める。こうなったら意地でも意見を変えないことは、これまででよく分かっていた。
どうせ公園で年越しをするならと、ぶらんこに乗って年越しとか提案してみるが「先輩、アホですか」とある意味嫌だと言われるよりも冷たく拒絶を喰らった。
最後の年越しなんだから何か特別な年越しにしたい。勉強のことでいっぱいだった脳みそは、ただいまは恋愛関係を考えるには不向きになってきていた。

「最後なんだから最後なんだからって、先輩来年も来てくれるんでしょう…」

他意は無くとも、なんか嫌な感じがする。
「どうだろうな。忙しいかもしれないし、大学の友達と遊んでいるかもしれやいし…」厭らしく笑いながら言って先輩は、からかってくる。冗談だとしても達が悪い。
タイムリミットはあと1分。「先輩なんか大学行ったら俺なんか忘れて、女の子と付き合っうんですよね」先輩に反論を言う時間も与えないで、言葉を続ける。「先輩なんか嫌いです」鐘が鳴って去年が終わったのを知らせた。今年最後の言葉がこれとは、笑っていいのかダメなのか。



















年賀企画で没ったの発見。

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