24歳 まったりと暖かくなった火燵の中でコーヒーを啜った。コーヒーの味はヒロトが五月蠅いから高いものを煎れているけれど、リュウジにはそんな違いは今でも分からない。それでも煎れるのは上手くなったと自分でも思いながら、また一口コーヒーを啜った。 ちらりと向かい合ってヒロトを見たら、彼もコーヒーを啜っていてテレビでレンタルしてきたDVDを見ていた。だけど、リュウジの視線を感じ、リュウジの方に首を動かして薄く笑う。 「リュウジ、またコーヒー煎れるの上手くなったね」 「そうかな、」 いつもコーヒーを煎れると言われる台詞だから、なんだか疑いってしまう。自分もまたコーヒーを飲むと、カップの中には殆ど黒い液体は無くなって底が見えていた。コーヒーの味なんてちっとも分からないのは、専ら自分が煎れたコーヒーしか飲まないからかもしれない。いつも自分ばかりが煎れているからたまには良いだろうと「ヒロト、コーヒー煎れて」とマグカップをヒロトの方に押しやってお願いしてみる。 「めんどくさいからやだ」 「たまには良いだろ。いつも俺ばっか煎れてるじゃないか」 「それは緑川が秘書だから当たり前だろ」 そう言われてしまえば手も足も出ないで、緑川はでもっとそこで言葉を濁した。それを言われてしまえばどうしようもないのだ。立場が上なのはヒロトであり、自分は秘書。 それでも「たまには良いだろ」と粘って言ってみたら「文句言わないで自分で煎れてこい」と言われて緑川は渋々火燵から立ち上がり「わかりましたよ、社長。社長もお代わり要りますか?」と言ってみれば、やはりヒロトも残りが少ないマグカップを渡してきた。 キッチンに入ると、いつもおいてある棚から色々と取り出してドリッパーをセットした。ヒロトがお気に入りの豆をフィルターに入れて熱湯を注ぐ。リュウジとしてはインスタントの方が楽なのにわざわざ本格的な物を人に押しつけるのはどうかと思っているけど、毎回頼まれたら淹れてしまうのは惚れた弱みなのか。 「社長、熱いので気を付けて下さい」 「どうも、ありがとう」 マグカップを手渡して、また火燵に潜り込む。ドラマは進んでいるし、体は冷えていた。 結局また自分で淹れてしまったコーヒーをリュウジは飲んだ。 「今、ふと思ったんだけどさ」 「何?」 「リュウジの敬語って中学生時代を思い出すよね」 それを言うと、リュウジは顔を僅かに赤くしながら「それは言わない約束だろ、そして忘れろよ・・・」と言って火燵の中で足を激しく蹴ってきた、予想外のことで持っていたコーヒーがマグカップから溢れてテーブルに落ちた。「リュウジティッシュ取って」と言っても拗ねたのか、取ってくれる気配は無い。そこまで照れるというか怒ることでもない気がするけどな、と思いながらヒロトは自分でティッシュを取ってテーブルを拭いた。白いティッシュがコーヒーを吸って黒くなる。 「ヒロトの馬鹿」 「ごめん。けど、そんなに恥ずかしがらなくても」 「ヒロトは変態だから気にしてないだろうけど、俺は相当恥ずかしいよ・・・」 「可愛かったのに、レーゼー」 そういうと真っ赤になって今にも泣きそうなリュウジの手を取って、口づけた、今の方がもっと可愛いけどね、と言うと馬鹿と言われてまた足を激しく蹴られた。 咲織さんリクエストで基緑で冬っぽい話。 無印は甘甘が書きやすいです。 |