プロローグ*週末宣言

目の前に広げられた白い紙を睨みつけながら、私、織竹 透は大袈裟に息を吐き出した。
私の机の上にあるこれは、友達から渡された人間の未来や性格を占う紙…所謂心理テストというやつである。こんな紙切れ一つで未来がわかるなら苦労しないだろうと零した私の一言に納得のいかなかった様子の彼女達からほぼ強制的に手渡された、全くもって面倒な課題である。

「馬鹿馬鹿しいわね…」

心理テストの内容は至って単純なものだった。
『百万円手に入れたらまず何をしますか?』
『無人島に行くとしたら何を持って行きますか?』
なんて、在り来たりなもしこうだったら、なんていう未来を仮定した質問。そういえば、この間英語の授業で「if」なんていう接続詞の勉強をしたけれど、それと同じようなものだろうか。
if、イフ、もうそうだったら、もしこうだったら、そうやって未来や過去を嘆くのは人間の悪い癖だ。
後悔するなら先に動くべきだろう。泣く様な思いをするならば答えを探すべきだろう。
夢の無い発想だが、どうしても私はこの白い答案用紙の全ての質問に対し、そう答えることしかできなかった。

「私は、だって、逃げたりしないもの」

だから他人に一言物申せる。それはおかしな見解だと、嗤ってやることができる。


本当に?


「…え…」

誰かの声が聞こえた気がして、それと同時に私の右手はするすると最後の問いの前へとペンを運んでいた。

「…もし世界が終わったら…最期の一日、何をしますか?」

そう、それだって何処にでもありふれたような質問。子供染みた、起こるはずのないお話。
けれど、私はその質問から目が離せなかった。頬を伝う冷や汗の理由もわからず、高鳴る焦燥感の真意も掴めず、ただ息を呑む。

「…気のせい、よね」

夕日が照らす閑散とした教室にただ一言、私の声だけがぽつりと響く。
心理テストの紙を閉じるとそれを鞄の奥に押し込み、私は逃げる様に教室を飛び出した。
最後の質問は、当然白紙で。

今日は金曜日。
またいつものように、週末が訪れる。
まだ何も知らなかった私は、ただそれだけを願っていた。
それだけを、必死に祈っていたんだ。



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