少年Fの独白(イナクロ:フェイとSARU)

世界に抗うこの大きな組織の皇帝は、僕と同じ小さな少年である。
何故彼がフェーダを指揮するようになったのか、一連の理由を僕は何一つ知らない。
実際、彼と付き合いが長いのはフェーダの中でもメイアやギリスくらいであるが、彼らの口から僕らにそのことが語られることはおそらく無いだろう。

「ねえフェイ、世界はこんなにも綺麗なのに…どうして生き物はこんなに醜いんだろうね」

会議室の窓辺で外を見下ろしながら、白髪の少年はくつくつと笑う。
そんなくだらない質問をされても、僕には返答の仕様が無い。
黙り込んでいると、ああごめんねと彼は僕の方を向いた。真っ黒な瞳がこちらをゆっくり見据えた。
無垢な色をした瞳は、されどその奥にどす黒い闇を孕ませている。吸い込まれたら終わり、そんな恐怖が僕の全身を小さく震わせた。

「誰しもが望んだ形で生まれることができれば、不平等なんてないだろうに」

けどね、とSARUは続ける。その声音に嘆きの感情は一切含まれていなかった。

「居場所がないなら、つくればいいんだ。ただの人間には、それをする勇気がないからいけない」

強くなくてはね。
SARUはまた楽しそうに笑った。
月の光に照らされる彼の輪郭は、本当に幼い少年の姿なのに、どうしても僕は彼と距離を感じてしまう。
セカンドステージ・チルドレンに感情は要らない。「友達」とか「家族」とか、そんな馬鹿げた集団概念は持つだけ無駄だ。SARUはそう言っていた。
つまり僕らは、こうやって互いに身を寄せ合って生活していても、結局は孤独から解放されることは永遠にないのだ。世界を手に入れたところで、周りから理解を示されるようになったところで、待っているモノが明るいものとはとても僕は思えない。
けれど、彼は信じているのだ。必死に手を伸ばした先の未来が素晴らしいものであると。多分、誰かの口から未来を否定されても、彼は耳も貸さないだろう。
そして全てを手に入れた瞬間、彼は絶望するんだ。手にしたものがあまりに小さいことに。そして僕らの「孤独」は永遠に拭い去ることは出来ないことに。

「フェイ、どうしたの?」

SARUに声をかけられ、はっと我に返る。なんでもないよ、と無理矢理上げた口角を見てSARUは一瞬首を傾げたが、気にしない素振りで視線を僕から移した。

「楽しみだなあ。僕らだけのユートピア。古い人間の淘汰された世界が、もうすぐそこまで迫っているんだ」

まるで信仰者の様に次から次へと彼の口から零れる「理想の未来」の形。本当に、彼は見えない何かに取り憑かれているかのように、いつもこうやって僕に話をしてくる。
溜息一つ漏らさず聞いている僕も、そんな彼に魅せられた一人なのだけれども。

「さて、皆を集めないと。そろそろ会議の時間だ」

先に行ってるよ。
そう言い残して、SARUは部屋から姿を消してしまった。
ぽつり。一人残された空間をぐるりと見渡す。SARUの居た窓辺からは、スポットライトの様に月明かりがそっと差し込んでいた。
僕はこの光に照らされて舞台に上がることは決して無いのだろう。SARUは戦い続ける。いつだって誰よりも前に出て、先陣を切って。
もし、彼が未来を手に入れて全てを知ったなら、その時彼はどうなるのだろう。舞台の主役は、そのままぱたりと倒れ、息を引き取ってしまうのだろうか。
舞台裏の僕は、彼の悲劇を見届ける役。それ以上のことは許されない。

「…全部わかっていて彼の傍にいる僕が、一番最低なんだろうな」

くるり、と月明かりに背を向けると、僕はSARUの出て行った扉へと後を追いかけた。





少年Fの独白
(盲目過信に気遣いは無用)


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勢いとノリで書いたのでそんな深い意味はないです。フェイ君はSARU君より頭良いんじゃないかってお話。
副題は某ボカロソングから。


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