マイナス1秒の瞬間(SN3:イスアティ)

※イスラルートネタバレ有





全身にのたうち回るような痛みを感じながら、もう考えることも疲れた脳はただただ剣を持つ腕だけを必死に振るっていた。
次々に現れるふわりと浮かぶ亡霊達を無心になって斬り倒していく。

「っは、はぁ…」

息が辛い。心臓が大きく跳ね上がったかと思うと、急かす様に小さな音を鳴らしていく。ああこの感じはいつもの、身体が死んでいく感覚。
けれど、今回は違う。呪いが解け、剣が再生しなくなった今、もう蘇生することなどあり得ない。今度こそ自分は着実に死への道を歩んでいる。
きっと、亡霊達を全部倒しても身体は死に絶えるし、もしかしたらその前に倒れて奴等に喰い殺されるかもしれない。
なんだ、結局僕が楽に死ねる未来なんてなかったってことだ。

「イスラ!」

亡霊達の断末魔を掻き消すように響く、凛とした高い声。
僕と同じ白い髪をした女が、召喚術で辺りの敵を蹴散らしながらこちらに近づいて来た。右手には青く光る剣を持って。

「ア、ティ…」
「待っててイスラ!今私もそっちに…!」
「来るな!!」

アティの身体がびくりと跳ねる。
来るな。来ちゃいけない。こんな真っ赤な道を進むのは僕だけでいい。
それに彼女にはまだ、やるべきことが残っている。こんなところで巻き添えを食らわせるわけにはいかない。

「君は、先に行って…遺跡を、早く封印するんだ…」
「でも…っ」
「つくづく、君はお人好しだなぁ…」

こんな時くらい、非情になってくれてもいいのに。
彼女は本当に甘い。他人を殺せない、傷つけられない。その甘い考えで僕を生かし、今もこうやって助けようとしている。
馬鹿だなあ。その性格のせいでたくさん損をして、たくさん傷ついてるというのにね。

「…ねぇ、先生。僕はね…」

彼女が嫌いだった。何もかも笑顔で繕って、叶いもしない夢を愛している。まるでヒビ割れた鏡の自分を見ているみたいで、憎くて疎ましくて。
けれど、共に未来を歩んでくれると言ってくれた彼女。幾度も傷つけられたというのに、最後の最後まで手を差し伸べて来た、誰よりもお人好しな馬鹿な奴。
嫌いだ。大嫌いだ。でも本当はそれ以上に…。

「僕は…君が好き、だよ」
「…え…」

アティは僕の言葉が理解出来ていないのか、目を丸くしてこちらを某然と見ていた。
その隙をついて亡霊達が彼女を取り囲む。
させない。彼女を、死なせはしない。

「お前らの好きにはさせないっ!」

召喚の呪文を唱えると、黒い剣が辺りに現れ亡霊共々大地を突き刺した。
呻き声。破壊音。でも、もう何も聞こえなかった。

「さよなら、アティ」

遠くの方で涙を流して何かを必死に訴えている彼女を置いて、僕は震える腕をで剣を振り上げた。
何よりも死ぬのことを望んだはずなのに今になって後悔ばかり浮かんでくる。歪む視界を振り払う様に叫んだ声は空に反響した。
光が遺跡内を包む。亡霊達を引きずりこむ様に広がる光の真ん中で、頬を伝う何かがひどく熱かった。
お別れだ。これできっと、最期。
鼓動が再び大きくなり、そしてそれすらも遠退いた頃、誰かが僕の名前を呼ぶのが聞こえた。
それは、最後の最後に望んだ、僕のもう一つの願いの足掻きだったのかもしれない。





マイナス1秒の瞬間
(君の隣を歩く未来を斬り殺して)





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pkmn以外の初ジャンルはサモンナイト。
イスアティ書けて私は大変満足です。ただ勢いで書いたので色々雑ですが…。

アティ視点の話も書けたらいいなと思ってます。


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