前後ろパラドックス(ジョウト組)

僕は今日も彼女と森に行く。
数ヶ月前、ウバメの森の近くで知り合った異国からやって来た女の子。ひょんなことから出会い、僕らは仲良くなった。
黒い長髪に、赤い可愛らしいリボンを付けている、シャルデルという名前のゴーストタイプの
少女。リボンは父親から貰ったものらしい。
きっとあの子も、生きていたらこんな髪飾りがよく似合っていたのだろうな。

「イマユリ」

僕の名前を呼ぶ声。死んだ幼馴染によく似た、透き通るような、でも今にも消えそうな儚い声。
シャルデルが僕の腕を引いてきたので慌てて我に返った。

「どうしたの、ぼんやりしてるみたいだけど」
「あ…ああ、ごめん。なんでもないんだ。ちょっと昔のこと思い出してて…」
「…むか、し?」

シャルデルは僕の言葉を反芻する。不思議そうに長い睫毛が上下に揺れた。彼女には昔の記憶が無いらしい。ゴーストタイプは前世がある者とそうでない者が存在するらしいが、彼女自身は自分がどちらに該当するのかわからないのだと以前話していた。

「昔か…私にもきっと、良い思い出があったのだと思うわ」
「…どうしてそう言い切れるの?」
「だって、今こうやって何かを必死に探していられるから。それはきっと、とても大切なものだったと思うの」

彼女の探し物。それは、記憶の断片に残されていた一人の少女。彼女の妹の存在だった。目を覚ましたシャルデルはそれだけを覚えていて、今も何処にいるかもわからない妹に会うためこの世界をアテもなく旅をしている。
時折こうやって、僕の元に遊びに来てくれるわけだが。

「もし、それが私の前世だったら…何処かでイマユリにも会えてたら良いのになあ…」

近くに落ちていた小枝を拾い、小石を蹴り飛ばしながら、シャルデルは子供っぽく笑った。その光景を眺めながら、遠い昔仕舞い込んだ幼い記憶がゆらりと浮かび上がる。

「ねえ、いつかこの森に連れてってね」

そう小指を結んだ白い肌の少女は病の淵に倒れ、そして時を迎える前に逃げる様にこの世を去った。
もし、もしも彼女がこうやって蘇っているようなことがあったら、何処かでこんな風に、ペルーシャや僕のことを探してくれているんだろうか。
それとも、もう何も思い出せないまま、夢の中で永遠に眠り続けているのだろうか。死んだ後なんてわかるわけがない。だからこそ、こんなにも怖い。

「ほら、やっぱり」

不意に、シャルデルが持っていた小枝で頭を叩いてきた。力はこもっていなかったものの、細かい葉のついた枝は少しこそばゆい。

「な、なにシャルデル…」
「やっぱりぼんやりしてる。…今日はもう帰ろう?」
「あ…ごめん」
「気にしないで。…ねえ、いつかまたこの森に連れてってね」

森の草木がザワザワと音を立てて踊る。その中に佇む彼女は、もう何年も前に居なくなった幼馴染の顔で微笑んでいた。





前後ろパラドックス
(ああ、なんて見て呉れだろう)





×××××××××××××××××

イマユリ(トゲキッス♂)と、事故で亡くなった幼馴染シャルロ(メガニウム♀)の生まれ変わりのシャルデル(ゴースト♀)のある日常。

すれ違うばかりで混ざらない心の話。

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