さよならシューティングスター(七夜)
お願い事を叶えてくれる短冊の妖精さんの、七回目の夜。
なんでもいいよ、ひとつだけねがいをかなえてあげる。
あの子はそう言ってにっこり微笑んだ。ふわふわと浮く姿は重力に逆らったお星様みたい。
わたしは真似して小さく笑った。
いいの、願い事なんて、わたしにはないの。
あの子は一瞬ぽかんと口を開けて、それからもう一度、まるで呪文のようにこう言った。
なんでもいいよ、ほんとうになんでもかなうんだよ。たったひとつだけ、きみがほんとうにのぞむものはなに?
わたしはなんどもあの子の前で首を横に振った。
願うものはあるけど、あなたに叶えてもらうものはないの。
どうして?
だって、叶えてしまったら、わたしはあなたのすべてを奪ってしまうもの。役目を終えた妖精さんは眠りにつくのでしょう?あなたとずっといたいなんてお願い、叶えられるわけないじゃない。だからお願いしないの、これでいいの。
あの子は考え込むように黙り、それから暫くして顔を上げた。その表情はひどく穏やかで、優しくて、今にも消えてしまいそうなほど儚いものだった。
わかった、わかったよ。それならばしかたないね。
あ、まって。ひとつ…ひとつだけ、やっぱり見つけたわ。
なんだい?
あなたの幸せを、ずっと祈っていたいの。何年、何百年経っても。千年後はきっと会えないから、わたしは祈るの。大好きなあなたのために。
妖精さんがまた静かになってしまった。その瞳に溜まったなにかをわたしは見なかったことにした。だってわたしも、きっと今おんなじことになっているはずだもの。
ありがとう、ぼくはきみをわすれないよ。たとえなんねんねむりつづけたとしても。
わたしも、忘れないわ。さようなら。
あの子は小さく頷くと、光る繭に包まれて星空に吸い込まれるように居なくなってしまった。
さよならシューティングスター
(どうか、良い夢を)
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