部屋の外が前にも増して殺伐としている。
なんか、モッチーの取り巻きがモッチーの想い人突き止めて殺そうとしてるらしい。何それ怖い。

まだちょっと節々が痛いものの、どうやら事態は緊急を要するようなので、やむなく俺は申し訳ないことに伊作さんにまた洗ってもらった着物を纏い、部屋からモッチーの元まで疾走した。
伊作さん…!今日こそは畳むからねっ!いや、フラグじゃねぇし!違ぇし!

モッチーは外で黄緑色の装束を着た奴と二人で話していた。黄緑って…三年だっけ?しばらく見てないから忘れたなぁ。

「モッチー!ごめん、急用!ちょっと来て!」
「ッ!」
「恒希さん…!は、はい!ごめんね浦風君、またね!」

俺がモッチーのことを呼んだ瞬間に、浦風君とかいう子から殺気が飛んできた。まぁ、全然ビビらないけど?こちとら六年の集団に勝ってんだ!

「俺、常に時間ないから悪いけど運ばせてね!」
「え?!ぅあ、ははははははいぃ?!」

肯定かただ驚いただけかは判断できなかったが、とりあえずモッチーをすぐさま所謂お姫様抱っこし、全力疾走した。

「ちょ、恒希さ…!」
「いいからしっかり掴まってろ!舌噛むぞ!」

何かを訴えようとするモッチーに、これで相手が嫌いな奴だったら時間ないし無理矢理喋らせているところだが、一般人なモッチーにはこのスピードはキツイだろうと黙らせる。
ふと、この状況はまるでお姫さ、いや天女様が怪しい奴に誘拐されたように見えることに気づいたが、そんなの知らないふりをすることにした。

「いた!い、じゃなくて善法寺君!」
「?…ああっ!この前のプロ忍の!と…天女」
「何故、二人が…?!」

俺が神様の第六感様々で発見した伊作さんに声をかければ、伊作さんは驚きながらも心なしか嬉しそうにしたと思ったら、モッチーを見て途端にテンションを下げた。伊作さん…露骨過ぎです!
ちなみに食満はスルーする。
残り時間、約40秒…よしよし、急いだかいがあったな。これなら着物畳む時間はとれそうだ!

「時間がないから簡潔に言う。まず、モッチーは今の無駄に忍たまから好かれる状況をよく思ってない。そうだな?」
「は、はい!そうです!」
「な、待てよッ!んなわ、」
「お前の発言権は今認めてねぇんだよ」

口を挟んできた食満にちょっと殺気を送ってやれば、緊張したように口を閉ざした。
ざまぁないな!八代恒希、湯飲み暦数十云年、食満には徹底的に厳しく接していきます。

「あ、あの、一つ聞いていいですか?」
「え?あー…まぁ、いいよ」

手を挙げ俺を窺うように聞いてきた伊作さんに、本当のところ早く話を進めたかったが、まぁそこは伊作さんの頼み…やむを得んな。
食満がえええぇえ?!伊作はいいのかよ?!という目で見てくるのをまったく無視して、俺は伊作さんの発言を待った。

「今、天女さんのことモッチーって呼びましたよね?それってつまり…」

さっきの俺の話でか、嫌悪をいくらか困惑に変えて伊作さんはモッチーを見る。食満もそれに続いて、俺を見、モッチーを見た。

「その話は俺もモッチーに聞きたいことがあるが、次の機会にしてくれ」

俺はね、悟った。一分じゃそっちの話までできない。一分ってね、凄ぇ短い。だって残り時間20秒。
どっちが優先かって言ったら、俺は時間切れにならない限りは食器の神様の最強なんちゃらがついてるからそうそう殺されやしないし、モッチーが伊作さんと食満に殺される可能性消す方が先決だろ。

「善法寺君も食満も、身元不明な俺は信用できないだろうが、モッチーの言い分を聞いてやってほしい」
「え、何で俺は呼び捨て?」
「…わかりました。貴方がそう言うのなら」

前に俺から助けられたことを気にしているのか、伊作さんはいやに神妙に頷いた。俺はそれを複雑な気持ちで見る。
俺は伊作さんの所有物なわけだから、御主人を助けるのは当然なんだけどなぁ。

「モッチー、時間がないから俺はもう行くが、今のモテモテな状況がいかに嫌か二人に話してくれ。きっとわかりあえる。あぁ、専門用語はあんまり出さない方がいいと思うが」

俺はまぁ当然にしても、伊作さん達もさすがにあれは理解できないだろうと苦笑すれば、モッチーの顔が真っ赤に染まった。…あれ?
ふと伊作さんを見れば、何故か伊作さんの顔も赤くなっている。え、伊作さんどうしたの?!風邪?!なら、早く部屋に帰って休んで!
色々と気になりはしたものの、残り時間が結局5秒になってしまい、しかも現在地は外という危機的状況下に、やむなく俺は走りだそうとした。

「ま、待って!恒希さん!次は?!次はいつ会えますか?!」
「一週間後…っ!」

俺は振り返りもせず大声で叫び、自己最高記録を出す勢いで伊作さんの部屋に駆け込み、テーブルの上に滑り込んだ。
セーフ?身体は超痛いけど、割れてはいない。よかったぁ!セ――



お部屋の襖さんが外れていらっしゃるぅううう!いやぁあああ!伊作さんごめんなさぁああああい!!



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