(※設定の都合上、時間軸は救済編終了後の過去編です)
(※保健委員の特殊能力と何気に繋がっています)





今日も今日とて変身タイム終了直後走っていた俺は、伊作さんの部屋に到着する直後、ふと聞き慣れた音がしない事に気づいた。

鈴の音が、しない…?

俺は慌てて自分の耳に触れる。

「無い」

ピアスが。
あの鈴のピアスが俺にとって、俺の過去、前世でどれだけ重要なものかなんて覚えてもいないくせに、俺は自分の命も省みずさっきまで自分が居た保健室へと逆走した。

「っは!はぁ…はぁ…す、ず」

我ながら何をそんなに必死になっているのか、もう残り3秒もない制限時間の中、俺はさっきの惨事から他の保健委員でも呼びに行ったのか伊作さんも乱太郎君も居ない、薬品やらもぐちゃぐちゃに散らばった保健室の床に這いつくばり小さなパステルピンクの鈴を探す。

「あ!」

あった!
俺は滑り込むように不安定に一応立っている棚の下に見えた探し物へと手を伸ばす。

「っもう、ちょっと…!」

制限時間過ぎて…10秒は経ってないよな?まだ大丈夫、大丈夫な、はず。届け…っ!
指先が鈴を掠め、俺の手の中に収まる。

――と、同時に世界がスローモーションになる。

「…へ?」

床に這いつくばり棚の下に限界まで手を伸ばしていた俺は、倒れてきた棚を避けられず頭を強打した。
次いで、何の薬品がかかったのかわからないが自動的に幾つか混ざった液体が俺に降りかかり、激痛が身体中を走る。強打した頭部の痛みなんて比べ物にならないそれに、意識を失いかける。
俺はそれでも何とか湯飲みに戻るようにと強く思った直後、世界は暗転した。





「恒希さん?!っ恒希さん…!」

あ、伊作さん呼んでるから目覚まさなきゃ。
俺は目を開けた。…あれー、伊作さん泣いて――

目を、開けた?
てか、そもそも湯飲みの時俺気失わねぇ…よな…?

「…え?」
「恒希さん、大丈夫ですか?!僕が帰ってきたら恒希さん、棚の下に倒れてて…っ!新野先生が診てくださって大丈夫だろうって、でも…っ」
「あー…大丈、夫。ちょっと頭痛いだけ?うん」

…いや、こんな長い間変身してる時点で大丈夫じゃないよな?俺死んだよな?ちくしょー、意識失う寸前湯飲みに戻れたと思ったのに…っ!
念のためもしかしたら変身切り替わって私服の時間無制限モードかも!と一抹の期待で服見たら普通に着物でしたよね、はい残念終わったー。
でもそんなことは言いません。伊作さんが心配してくれてんだから、安心させる方が先です。さっすが俺。安定の伊作さんラブ。

「あの…時間、大丈夫です、か…?」
「……うん、まぁ」

大丈夫じゃないですね。言わないけど。
…てか、棚を強打した頭痛しかしないんだが、そういや薬による激痛はどうなったんだ?
俺は着物の胸元から手を中に入れ、薬品がかかったはずの背中を触る。…おかしいな?痛くない。火傷ぐらいにはなってるもんだと思ったんだが…?

「あのさ、伊作君。俺の背中になんか怪我あったとか新野先生言ってた?」
「え?いえ、頭の怪我以外は…」
「…そう」

おかしいと言えば、相当時間過ぎてるのに今までみたいに身体に変化無いんだよな。うーん?

「伊作君、2秒あっち向いて」
「え、は、はい」

言われたまま後ろを向いてくれる伊作さんの素直さに微妙な気持ちになりつつ、俺は優しい伊作さんを騙す形で湯飲みに戻る。


…戻る…もど……あれぇ?戻れなーい(笑)

「は、はは」
「どうしました…?」
「いや、何でもないよ。何でも、はは」

何でもあり過ぎてどうしたらいいか俺もうわかんねぇや。
俺は伊作さんの心配そうな視線さえ気にする余裕さえなく、頭を抱える。

「…伊作君、俺下敷きになってた棚に入ってた薬品何かわかる?」
「えっと、あの棚はだいたい消毒関連だと…あ、僕が新しく作ろうとしていた消毒薬の実験過程のものなんかもありました」
「…そう、ありがとう」

よくわからないがなんかの化学反応で俺は湯飲みに戻れないって解釈で合ってる?
何となくだけどいつもより身体重い気するし…湯飲みの神様の力?が今使えない状態になって、なんかそれがどうこうして俺は湯飲みに戻れない…のかなぁ…?成る程わからん。

「まだ保健室ぐちゃぐちゃだろ?とりあえず一緒に片付けるか」
「え、駄目ですよっ!怪我人は安静にしていてください…!!」
「プロ忍はこれぐらいで寝てられないよ」
「駄目です!」

結局、押しきられた。伝家の宝刀プロ忍発言したのに。
何だろな、時間があると…逆に持て余してしまう。俺前世で何してたんだろう。
逆ハー補正を解きに行こうにも、伊作さんが保健委員として目を光らせてるし。あんまり心配かけたくないんだよなぁ。

「…伊作君、それ終わったらお茶するの付き合ってくれない?」
「っ!は、はい…!是非付き合わせてくださ、わぁあああ!!」

がっしゃーん。
…何が倒れたんだろう。仕切りで見えない。俺、本当に片付け手伝わなくていいのかなぁ。伊作さん、暗くなるまでに終わらせられんのかなぁ。…心配だ。



結局、いつの間にか寝ていた俺はいつの間にか湯飲みに戻っていた。保健室は暗い。
どうやら伊作さんは今日中に片付けるのを諦めて今日は部屋に帰った…らしい。
……どうせ長く人間になってられたなら、やっぱ伊作さんとお茶したかったなぁ。タイミングも悪かったし、唐突過ぎたもんなぁ。
あ、でも伊作さんの使う湯飲みが俺以外だとちょっと悔しい気もする。

それにしても身体が痛い。



一周年お礼フリリク。キイチ様へ贈呈



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