俺は部屋で伊作さんと食満が仲むつまじく話しているのを、いつも通りテーブルの上から伊作さんに時折持ち上げられ口づけられつつ見ていた。悔しい!俺だって伊作さんとのんびりお話ししたい!
…いやいや、今はそんな嫉妬心むき出しにしている場合じゃないぞ?俺。
俺は先日の一件について思い返した。天女サン改めモッチーの話を聞いていて思ったこと…



一分間って超短い!


じゃなくて!いや、それもそうなんだけど!

モッチーの幻術(?)に関してだ。モッチーはモッチーでなんかそれらしい専門用語を使っていたが、生憎覚えていない。
モッチーの人柄を僅かながら知ってしまったからこうは言いたくないんだが、天女を殺せば終わり!なんて単純な話じゃなくなってしまったのが痛い。
モッチーが故意にやってるわけじゃないらしいし、むしろ嫌がって泣いてたからなぁ。そんな女の子に、もしかしたら殺したら解けるかもしれない!なんてくない心臓に突き立てる程非情にはなれねぇよ…。


「それであの怪しい女…天女のことなんだが、」
「何かあったの?」

俺が悶々と考えている間に、食満が意味深な言葉を吐き、伊作さんが不安げにその先を促した。
そういや、二人はモッチーがむしろ考え的には味方だって知らないんだよな。二人とも完全に敵対する姿勢だし。何とかお互いの気持ちを知ってる俺が架け橋にならにゃ。
…軽はずみに助けになってやるなんて言うもんじゃなかったかもな。忙しすぎ。

「好きな男ができたらしい」
「え?」

え?
思わず持ち主に似たのか伊作さんと同じタイミングで食満を凝視した。
モッチーに好きな男…?ただ今絶賛望まないモテ期到来中のモッチーに?何だ何だ、アプローチしてきた奴等の誰かになびいたのか?相手によっちゃあ、お兄さん黙ってないぞ?
伊作さんに刃向けた奴等なんて、一人残らず殺したいぐらいに思ってるからな。

「それは…誰が相手にしろ、一波乱ありそうだね」
「ああ。天女の取り巻きが騒いでいた。名前は明かしていないらしいが…」
「あの人、騒ぎになることぐらいわかんないのかな」

珍しく苛立った様子で刺々しく言った伊作さんに、食満も不機嫌そうに同意する。
…モッチーにも、考えがあったんだと思う、よ?だって何かあの子、色々知ってそうだったし。
いや、でも相手の男はバレたら…ヤバいんじゃないのか?今のアイツ等なら暗殺でもやらかしそうな気がする。

「何かその相手の情報は?」
「あの女、食堂で散々惚気てやがったからな。嫌でも耳に入ってきた」

心底嫌そうに吐き捨てる食満に、俺は実際には気持ちだけだが冷たい視線を送る。
言っとくけど、食満、お前の評価は俺の中でモッチーよりずっと低いからな?お前の方が伊作さんに対するあれこれで嫌な奴だと思ってるからな?

「此方に来てから自分を初めて泣かせてくれた奴だってよ」
「ふーん…」

へぇ、そりゃいい話だ。伊作さんはモッチーの真実を知らないから微妙な反応だけど、やっぱり優しいから不遜な態度でもないのに惚れ直した。伊作さん、格好いい!

「それと、自分のことを気軽にモッチーとか呼んだことが嬉しかったってよ」
「へぇ…じゃあ、少なくとも僕達が知っている中にはいないね」
「だな。あの場の誰もそいつのことは知らなかった。だが、呼び方が限定されてりゃ、それを言った奴が天女の意中の相手だって一発だ」
「どうするにせよ、僕等が先にその男を見つけ出さなきゃね」

伊作さんと食満が深刻そうに話し合う。
…モッチーって、俺の呼び方と一緒じゃん。紛らわしいから変えるべきか?


――いや、やっぱタイミング的に考えて俺のこと?まぁ、モッチーも湯飲み相手にガチで恋をするわけないだろうが、話としては俺にも当てはまりそうなんだよな。
あの子、あれで頭良さそうだったし、協力者の俺を交えた一種の作戦?

次に人間の姿になる時は、伊作さんとついでに食満をモッチーと引き合わせて和解。協力者にして…後は好きな人騒ぎのモッチーの真意でも聞き出すか。



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