あれから一週間程経つと、節々の痛みがなくなった。多分耐久力が回復したんだろう。耐久力落ちてる時は、洗ってもらうだけでも辛かった。うんうん。
さて、と、では諸悪の根源であられる天女サマにでもお目見えしましょっか?
結局、伊作さんが洗ってくれて、また仕舞うことなく部屋の隅に畳まれていた、例の着物をまた借りるかな。申し訳ないけど、素っ裸で出歩くのは俺は当然にしても周りも嫌だろうし、やむを得ん。
さて、天女に言いたいこと聞きたいことを脳内でもう一回纏めて…うん、準備完了!
「あー、慣れない」
人間になった瞬間、その全部に慣れなくてふらつく。これ多分10や20やらなきゃ慣れなそう。
俺は急いで着物を着て、部屋を出た。今回は3秒でできた!俺頑張った!
天女のいそうな方向に走っていると、食堂に着いた。お食事中?知るか!こっちは時間ないんだよ!
「天女サンいますかー?!」
食堂で叫べば、事務の女の子(?)がこっちに来てくれた。こちとら食器の神様からお借りした凄まじい第六感があるんだ。ここにお前がいるのはわかってんだぞ。
てか天女が隠れようにも食堂誰も人いないな。まだ昼じゃないのか。湯飲みになると時間感覚がわからなくなって困る。
「はい」
「はい?」
「え、私のこと呼びましたよね?凄い恰好してますけど…アナタも忍たま?」
なんか質問された気がするが、とりあえずスルー。
何?この子が天女…?いやいや、どっからどう見ても普通の女の子じゃん。確かにかわいい子ではあるが、何を根拠に天女?
「羽衣でも持ってんの?」
「え…あ、あのっ!私、天女なんかじゃないんです!ただ歩いてたら地面がなくて、落ちて、気づいたら昔の世界、いえ落乱の世界にトリップしていて…」
「よくわかんないけどつまり、天女サンは天女じゃないのか。わかった。あー…じゃあ呼び方困るから名前教えてもらえる?」
30秒経過。
わからん単語があったが、それより天女サンはやっぱり天女じゃないのか。でも天女サンの言葉を信じれば、くの一でもない、と。
…信じるまでもなく、隙だらけだよなぁ。俺じゃなくても忍たまの奴らが一捻りしたら、これ簡単に殺せるぞ?くの一とかヤバい奴だったら食器の神様から授かった第六感が働くだろうし…。
「望月夕美、です。私の話、信じてくれるんですか…?」
「望月さんね。まぁ天女よりは真実味あるからな」
望月さんが小動物のように大きな目を潤ませたから思わず頭を撫でれば、望月さんはボロボロと泣き出した。
「ありが、とうございます…っ!初めて、信じてもらえた…」
「どういたしまして?…あー、空気読まなくて悪いけど、忍たまのほとんどが望月さんを信仰してんのって望月さんの力?」
「ちが…っ!違います!勝手に逆ハー補正がついてて、忍たまで逆ハーなんて死亡フラグ立ちまくりじゃないですか!」
うん、やっぱりよくわからん単語があるが、望月さんも今の状況は不本意らしい。
望月さんは何で私がこんな目に…と、さらに泣き出してしまった。どうする、時間がないのに収拾がつかない。このままじゃ俺は部屋に帰れず死亡…。
「あーあれだ!俺が助けてやるから!危なくなったら俺を呼べ!だから、ほら泣き止め!」
「貴方の名前は…?」
「八代恒希。ヤバい、前より時間ない。悪いモッチー、じゃあまたな!」
もう後半は早口な上自分でも何言ってるかわからなかったが、命のタイムリミットが5秒切ってるんだ。許せ。
今回も結局滑り込みセーフでテーブルの上に戻った。
ごめん、伊作さん。次こそは…次こそは着物畳むからっ!