今日も俺は熱いお茶を身体に受け、御主人に口付けられる。


…いや、あの違うから。そういうプレイじゃないから。

アンタは、人間が死んだらその後どうなると思う?
天国地獄やら、霊魂やら、アダムとイヴの楽園に帰るやら、ただ土に還るやら、まぁ世の中にはそれはそれは色んな説がある。
俺が注目するのは、その中でも転生して新たなる生をまっとうするってやつ。動物は良い行いをしたら人間になれるが、人間は人間以外なれないんだっけ?なんかそれって動物を下に見てるってか、考えがちょっと人間視点過ぎやしないか?

俺は前世にそう悪いことはしていない。死に方は事故だったし。
でもまさか次目覚めたら職人のおっちゃんが「いい出来だ」って言いながら笑ってるなんて思うまい。無機物に生まれ変わるなんて誰が想像できる?

今や呼ばれることもない前世名、八代恒希。ただ今湯飲みライフ20何年目かです。
人間でも人間以外に転生できる証明だコノヤロー。喋れないから伝えられないがな。

「うん、やっぱりこの湯飲みはいいな」

ふんわりと笑いながら俺に嬉しいことを言ってくれた、かわいいかつ綺麗かつ格好いい、しかも性格まで良いこの人が、俺の御主人様である善法寺伊作さんだ。

中々にお高い値段で売りに出されていた俺は、湯飲みとして生まれたにも関わらず、もしかしたら一生茶を受けることなく観賞用となるかもしれないと思っていた。
注がれるのは熱湯なわけだしそりゃ恐怖はあったけど、湯飲みとして生まれたのにそれは悲しい。
まぁ、ある日俺をじっと見て「ぼく、これが欲しい」なんて当時の伊作さんが言った時は絶望したけどね。あの時は死を覚悟した。だってお金持ちのお坊ちゃん当時5歳、なんて湯飲みの一個や二個軽くパリーンだと思うだろ。

そんな俺の予想に反して、伊作さんはそれはもう俺を大事にしてくれた。
忍術学園に行くって時も、じゃあ離ればなれかなと思ったら、部屋で飲む用だとあっさり俺を同行させた。
そんな伊作さんは今やその忍術学園の最高学年だ。時が経つのは早い。

「お爺ちゃんになっても、この湯飲みが使えたらいいなぁ」

伊作さんはぼんやりと遠い目で呟いた。
伊作さん、俺もそう思ってるし願ってるよ。伊作さんは忍者になるから、死は隣り合わせだって知ってる。でも、伊作さんは絶対お爺ちゃんになるまで生きろ。

「おい、伊さっ…く、悪ぃ」
「…いいよ、慣れてるから。どうしたの?留さん」

勢い良く部屋の襖を開けた伊作さんの同室の食満君に、その衝撃で本棚から一冊の分厚い本が落ち丁度その角が伊作さんの頭にクリーンヒットした。これは痛い。
伊作さんの不運は今に始まったことじゃないが、帰ってくる度にあちらこちら怪我しているから心配で気が気じゃない。

「学園長から話だそうだ」
「また学園長の突然の思いつき?」
「いや、噂では…空から天女が降ってきたそうだ」
「は?」

きょとんと食満君を見る伊作さんの反応は普通だが、俺は天女がいてもおかしくないと思う。
食器になった前世人間がいるんだから、天女だっているんじゃないか?この部屋来てくれないかなぁ。是非一目拝みたい。

「何それ、刺客?」
「わからん。警戒はするべきだろうがな。一先ず行くぞ」
「うん」

確かに、天女よりは刺客だって方が現実味あるよな。刺客と言えば、何か伊作さんの話じゃ面白い名前の刺客さんがいるんだよな。何だっけ、しょせんこんなもん?いや、しょせんそんなもん、あれ?ざっとこんなもんだったか?
俺がこんなもんかそんなもん、しょせんかざっとで悩んでいる間に、伊作さんと食満君は部屋からいなくなっていた。

俺としては、天女か刺客かだったら天女の方が面白そうだから天女を希望しておこう。伊作さんに害さえなければどっちでもいいけどな。



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