また襖が開けられた時はびっくりしたが、入ってきたのは食満だった。
伊作さんだったらそれはそれで今に限っては心臓に悪いから、ありがとう食満。と俺は柔らかな視線を食満に送った。

…ん?食満さん、どうしたんですかその顔。んなくたびれたサラリーマンみたいな顔と背景背負っちゃって…ああ、サラリーマンも室町じゃ通じないんだろうな。
とにもかくにも、何だか食満が酷く疲れている様子だ。
俺は伊作さんと話したら問答無用でテンションが上がるが、最近の食満は俺の癒しの天使伊作さんと話してても疲れるような感じだもんな。贅沢な奴め。

「…伊作の湯飲みか」

久しぶりに湯飲みボディの時に意識して見られ、ちょっと居心地悪くなる。なんていうか、着ぐるみ着てる時は子どもにきらきらした視線でよく見られるけど、脱いだ後にまた子どもに会った時じっと見られているような感覚だ。
俺が着ぐるみの中身だとはわからないだろうが、そ、その視線は何なんだよぅ!見るなよ!俺を見るな!的な気分。

俺がそんな馬鹿な想像をしていると、食満は俺を持ち上げてお茶を淹れ出した。
俺さっき人間になったばっかりだから、身体痛いんだけどなぁ…まぁ、食満疲れてるみたいだし仕方ない。今日は甘んじてやろう。

自分の中から淡く梅の香りがしてテンションが上がる。
おお、梅茶とは中々いい趣味してるな食満よ!俺も梅茶は好きだぞ!飲むのも淹れられるのも!

「…はぁ」

梅茶を一口飲み神妙そうにため息を吐いた食満に、段々俺も真剣に心配になってきた。
ため息吐くと幸せ逃げるらしいぞ?俺はこれについては迷信じゃないと考えている。やっぱどちらかといえば、ため息吐いてる人より笑顔な人に幸せはやって来ると思うからな。

「阿呆臭ぇ…」

ぽつりと呟いてまた俺に口をつけた食満に、当然意味がわからなかった。
まぁ、錯乱状態の時ならともかく、人に聞かせる気のない独り言なんてこんなもんだよなぁ…。

…ん?この外から聞こえる足音は!

「留さん、ただいまー」

襖を開けて部屋に帰ってきた伊作さんに、俺はおかえりの念を送った。ちなみに今まで届いたことはない。

「…もう喧嘩は終わったのか?」

?!
喧嘩?!伊作さんがけ、喧嘩?!え、ちょ!伊作さん怪我!…は、なさそうだなうんよかった。血の臭いはしないし。
てかおい食満、何伊作さんが喧嘩してるのに一人のうのうと帰って来てんだよッ!

「僕、あの人とは本気で合いそうにないよ。てか、それ僕の湯飲みなんだけど」

伊作さんは食満の手から俺を乱暴に奪い、一気に飲み干した。な、なんか恥ずかしい…!
でも伊作さん、もうちょっと優しく扱ってお願い!今の俺、簡単に壊れちゃうから!

「俺にあたんなよ…。俺は天女の疑いは晴れたのに、余計に望月さんと仲の悪くなってるお前に疲れる」

?!
ちょ、伊作さん喧嘩の相手モッチー?!どういうこと?!もう何なの?!二人の関係はどうなってんの?!俺が見てない間にいつも二人は何してんの?!
もう俺、?!がゲシュタルト崩壊しそうなんだけど?!

当然その後も俺の疑問に二人が答えを出してくれるわけもなく、潮江の件に加えて俺のもやもやは増すばかりだった。


あ゛ー、もう!他のこと考える!
えっと、とりあえず次人間になる時はモッチーに専門用語やら教えてもらうかな。モッチーは何か色々知ってそうだったし、モッチーの此処に来る前の世界についても気になる。それからえっと、…モッチーの容姿なら普通に天女どうこう置いといてもモテそうだよなぁ…あ、伊作さんまた上手いことテーブルに足引っ掛けた。かわいー…何で伊作さんはこんなに素晴らしいんだろう。俺この人の湯飲みになれて幸せだよなー…伊作さんが将来誰かと結婚したら俺どうしよう。何か今のまま内面成長してなかったらその相手呪いそうだよなぁ…俺、一生伊作さんと一緒にいられるかな…?



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