一人でする詰め将棋の要領で一人チェスをする。皆馬鹿でつまらないから、いっそこの方が楽しいと最近気づいた。
前の世界でもチェスの大会で優勝したりしてたし…チェスに限らず、人を駒として動かすのは得意で慣れてもいたから、簡単だ。
人を一人追い込むなんて、簡単だ。

からん、とクイーンに殺されたキングの駒が盤上から落ちる。

消灯時刻が過ぎ、同室のサヨコも寝ている部屋内は静かだ。音がよく響く。
夜更けは思考が泥沼に嵌りやすいからあまり好きじゃないんだけど、今日は何故だかあえてこの時間に思いに耽りたかった。泥沼に片足突っ込みたい気分。そんな気分にさせるのもこの時間の魔力だなんて知っているけど。

…そうね、考える事といったら、少しだけ気掛かりな人が居る。確か名前は、恒希さん。
補正を解ける力を持つ人。それは私にとって有利な力だけど…引っ掛かる。彼との初会話での問答から故郷が私やあの子と一緒なのはわかったけど、彼はあまりにもイレギュラーだ。天女様に味方するような言動も不穏だし。

何より、今まで何度も観察して来た限りでは、天女様は彼を最も信じているようだった。

「…何とか奪えないかしら」

紙面の中の彼等を天女様から奪って行くのは楽しくないわけじゃない。でも、一人として味方は残したくない。たった一人でも、渡さない。それが一番な人間なら、尚更。絶対に。
私は光一つない絶望を創作したい。

気づけば床に落ちた木彫りのキングを、さらに執拗にくないを使ってまでぼろぼろの粉々にしていた。ああ…また作り直さなくちゃ。一応サヨコが起きていないか窺ったけど、寝返りすら打たなかった。それもそれでくのたまとしてどうかと思うけど。
煩い胸に手を当てて、憎悪に見下す目も閉じて、肩で息をするのも深呼吸して落ち着かせる。冷静にならなきゃよね。勝てる戦も勝てなくなる。

…絶対に負けない。あんたなんかに、絶対。絶対。絶対よ。

不穏分子?だから何よ、別に奪わなくてもいいわ。消す方法なんていくらでもある。自分の手を汚すなんてしないでもね。
忘れた頃に、は常套手段。洗脳は得意分野。

「ッああ、腹が立つ」

負けない。負けない。私は負けない。
おまじないのようなこれが呪いだって構わない。呪いだとしても憎しみに変わりはない。
あんたにだけは何があってもどんな手段を使っても負けたくない。だって、だって、…。

…何でもない。何でもないのよね、それが答え。アナタの、答え。
責めはしないわ。憎みはするけど。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -