忍術学園に蔓延していた逆ハー補正も随分解けたと思う。
でも、それと同時に俺の焦燥感も降り積もっていった。

俺は何かを忘れている。どうしても忘れたくなかった事を、忘れている。

「失礼する」

声が聞こえた瞬間、室内に居た俺と伊作さん、それから食満は身を引き締めた。

開かれた障子の外から入って来た人物、潮江は、らしくもなくしょげたような表情をしている。
…そうか。

「やっと解けたわけか」

俺の心を代弁したように、食満が呆れた顔で、でも隠しきれていない嬉しさを滲ませながら潮江を見た。

「ああ。…償いはいくらでもしていく」
「だってよ。伊作?」

これで、六年全員。俺の我が儘で潮江の心をすぐに取り戻しはしなかったから、可哀想な事をしたと思う。後悔はねぇけど。
伊作さんは自分の膝に顔を埋めていた。

「いい。…っもう、戻って来てくれたなら、それだけでいい」

泣いている。
とても幸せな事だ。

最近、思考感覚が人間だった頃とそう変わらないまでに戻ってきた。と同時に、以前より達観している感も感じる。
何だろう、湯飲みになったから?まぁ、悪い事じゃないさ。

「だが、ほとんどの忍たまが正気に戻ったってのに、俺が此処まで遅れたのは情けねぇにも程がある」
「いや、仙蔵から聞いたけどお前のそれは恒希さんがあえて大して助けなかったんだろ?仕方ねぇんじゃねぇの?」
「あ?お前が俺に助け舟かよ。気持ち悪ぃ」
「んだとっ?!テメェ戦んのか?!」
「はいはい、二人とも仲直りの喧嘩は後にして」

この犬猿やりとりも久々だな、と頬を緩ませながら仲裁に入った伊作さんと一緒に俺まで嬉しくなる。

「後、まだ補正にかかってる人は誰だろう?」
「あー…5年はまだほとんどだよな。でもそれ以外ってなると、」
「三木ヱ門」

一瞬、潮江のその一言の人名を聞いた瞬間、頭が白くなった気がした。いや、気のせいだと思う。聞き覚え全然ないし。
でも、なんだろう。なんか、もやもやする。

「ああ、会計委員で4年の」
「アイツ、あれで責任感強いからな。俺も少し気にかかる」
「文次郎が言うなら相当だね」

確かに。
じゃあ、次はその子の補正を解くモチベーションで行こう。


なんか、気になるし。


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