ホグワーツに私が入学して、それと同時にルシウスは最高学年になった。
いい機会だと、私はルシウスをルシウス先輩と呼び、彼と話す時は敬語を使うようになった。それでも身体の関係は続いていたけど、婚約者の居るルシウス先輩は卒業したらすぐに結婚する。そうしてそのまま、少しずつ離れて疎遠になる。
最初から私とルシウスの運命は繋がっていなかったから、当たり前の話。
「ブラック家の長男が、グリフィンドールなんてねぇ」
ふいに聞こえた陰口。
私の家はどちらかと言えば名家で、その家名は知っていた。だけど何より、それはルシウス先輩の婚約者の彼女と同じファミリーネームで。
少しだけ、気になったんだ。
「ねぇ」
シリウス・ブラックと先生から呼ばれていたのを聞いて、廊下のど真ん中で話し掛けた。
ただ話し掛けただけなのに、シリウス君は思っていたよりずっと端正な顔を歪ませて私を睨んで来た。
「何だよ、また家か?」
「家?どうでもいいよ」
家なんて、どうでもいいんだよ。
私の初恋の相手はそう言ってはくれない人だから、私は笑顔でこう言うの。
「じゃあ、何だよ」
最低な表情から少しはましになった顔に、昔私がまだ純粋だった頃絵本で夢見た王子様みたいだなと思った。
だから、もしかしたらこの人なら忘れさせてくれるかもと期待したんだ。
「いやぁ、シリウス君イケメンだなと思って?」
「は?」
「私ね、アモ・イングロット。シリウス君、よろしくね」
「…シリウスでいい。よろしく」
表情を和らげたシリウスに、私は確かに心臓を高鳴らせたから――きっと、忘れられると笑った。
「シリウスは、王子様みたいな顔してるよね」
「…じゃあ、」
シリウスは真剣な顔で私を見る。
「じゃあお姫様はお前がいい」
私は確かに、恋に落ちた。うそじゃないよ。