「私の名前は奈良陽。過去、至上最強の暗部総隊長と謳われ、過去の部下で今のお兄ちゃんの禁術により生まれ変わった、最強の3歳児。好きなものは甘栗甘のみたらし団子。よろしくね」

そう言って片目を閉じた、薄茶色の髪をはためかせた表情のよく変わる兎のような顔の女に、俺は一瞬思考を停止させた。
3歳。
前世の記憶があるにしても、意味の通る言葉を喋ってるようで喋ってねぇ年頃のあの歳で、この女は的確で冷徹で傲慢なあの戦闘と呼ぶには一方的過ぎる猛攻を軽々とやってのけたと言う。

「…3歳?」
「うん、変化解いたら普通に3歳児だよ?」

それが当たり前の常識であるかのように肯定する女は、たぶんそれがどれだけ異常な話か自分でとっくに理解した上だった。ここまで外れた存在が理解していねぇ訳がねぇ。
白に女の話を聞いた時、何をふざけた事をと思った。太陽に焦がされるように抗えない事だとそれが自然な話だと苦い顔をした白に、んなもんはただの強者への恐怖だと鍛錬不足を咎めた。
が、実際にこれを見るとわからねぇ話じゃなかった。これは、化け物だ。質が悪ぃ。

「他に質問は無いね?帰ってもいいよね?」

一度手を叩き話を切り替えた女が、早く帰りたいと隠しもしない本音を露呈させた。
短い付き合いだが女が里や任務にそこまで執着する奴には思えない。早く帰りたいと、何がこの女を動かすのか不可解にも程があった。
きっとその理由はこの女の遂げたい結末に帰結する。

「おい、まだ聞いてねぇぞ」
「ん?あ、緋兎の話とか?」
「違ぇよ。んなもん帰りにだらだら話してろ」

浅くだけ考えて答えがわからなかったらしい女は、不思議そうに俺を見上げて言葉を待っていた。それがこの女の普通で、物事を深く考えず他者に与えられた答えにのみでもあまりにも常人には出来ねぇ最良の結果を出せた故に許されて来た、甘えだと思った。
…まぁ、んな事は今どうでもいい。俺達を従えるってんなら、お前の底を話してみろ。

「俺等を部下にして成し遂げる、テメェの目的はなんだ」

誤魔化すなと脅すように睨んでやったが、そんなものは必要無いとばかりに女は満面の笑みを浮かべ反射のように即座に迷いもせず答えた。


「私の可愛い部下達の…幸せ」

それは確かに満面の笑みだった。が。闇の篭った、満面の笑みだった。
幸せとは何だ?こいつの語る、幸せとは。優しいものじゃねぇのは確かだ。いっそ、不幸せと紙一重な気さえする。
そんなものが目的。そんなものの為に俺と白を使いたいと。

なのに、それを否定する気も跳ね除ける気もまるで起きなかった。腹立たしい程に、この女に付いて行ってみたかった。
一歩踏み出せば深淵。戻れなくなるかもしれねぇ。いや、確実に戻れなくなる。それでも俺は自嘲して陽に声を掛ける。

「行くぞ。案内しろ」
「は、はい」

慌てて前に出て木の葉までの道を先導し始めた陽が、白を一瞬振り返る。陽と初対面の時からとっくに深淵に呑まれていた白は、俺の気持ちもお見通しとばかりに笑ってみせていた。

なんてことはねぇ。踏み出そうか迷っていた一歩なんざ三歩前に過ぎていて、深淵は既に俺を呑み込んでいた。それだけの話だった。

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