再不斬さんにおぶられ、元の3歳児なら未だしも今の変化した姿の私じゃ端から見たらこの光景ちょっと恥ずかしいんだろうなと思いながらも、木の葉までその背中で大人しくしていた。ちなみに顔は汚かったし元暗部総隊長な陽さんのままなので、赤い兎ちゃんが隠してくれている。再不斬さんと白君の顔にも、また何も描かれていない真っ白な面をしてもらっている。
暗部面の、しかもこんな目立つ真っ赤なお面つけてその辺歩くなんて私は緋兎ですアピールしてるようなもんであり、他はまだしも海と宵が謎の暗部に背負われさらに謎の暗部を後ろに従えた現状を見逃すとは思えない。
でも今はもう何も、考えたくなかった。
「何を考えてるんですか?」
白君が、後ろから私に問い掛けた。だから、何も考えてないって。
「おい、行き先は」
再不斬さんの問い掛けに、私は無責任に小さく唸る事しかしなかった。それを考える事さえ怠かった。
「…ちっ」
再不斬さんは、運んでもらっている立場の癖にふざけた私の態度に舌打ちだけして、何処かを目指して進んだ。
夜中とはいえ、音はある。私はその音に聞き覚えがある。ああ、彼等を最初に案内したアパートか、と私は安堵した。
今の私は、お兄ちゃんに笑えない。あの家には帰れない。会いたくない。
まぁ、元々変化を解いていない状態の私をわざわざ奈良家を探してまで連れて行くとは考えにくいかとは思ってたけど。
そして、目的地のアパート。ドアの前。そこに私は慣れ親しんだ、普通の人ならきっと感じられない程僅か過ぎる気配を感じた。彼が気配を殺すのは癖で、それは中々治らなかった。私が死んでからまた再発してしまったんだろう。
「空、ごめん、今日の私ちょっとお疲れだから、急ぎじゃないなら用はまた今度にしてもらえる?」
私は再不斬さんの背中から、顔だけ上げて微笑んだ。いや今私の顔は兎ちゃんが以下略。
「何かありましたか」
「…ごめんね、帰ってもらえる?」
普通に来てしまったから、このアパートの事はシカマルにバレるだろう。そしてこんな所で話してる時点で、ナルト君と私に何らかの秘密の関係がある事も。
一度心が折れたぐらいで、後に面倒を残し過ぎだ。かと言って、いつものように無難にかわす精神力は今の私に無いわけで。どう足掻いても以前に足掻くのを拒んでるわけで。
「俺じゃ、何もできませんか…?」
「うん、これは昔の私が招いた事だから」
明確に拒絶して、再不斬さんの首に回している手で彼の肩をちょんちょんと叩き、行きましょうと合図した。
白君が部屋のドアを開けてくれて、私達三人はその中に入って行った。ナルト君の事はあえて見なかった。
必要なのは無知で愚かな優しさではないと、私はもう気づいている。