目が合ったイタチ君は鋭く私を睨んだ。

「何者だ」
「…緋兎。木の葉の暗部末端、緋兎だすよー」

まだ、陽とは名乗らなかった。
とってつけたようないつもの訛りと真っ赤な兎の面を鎧に、私はイタチ君と対峙する。後ろに再不斬さんと白君を待たせている事さえ忘れてしまいそうな程、覚悟して心の準備もしたはずの再会は私の心を揺さぶっていた。
私は歪んだコミュニケーションでも取るように腕を振りかぶり一発、そして上段下段と回し蹴り、それから腹に抉るように膝を繰り出す。イタチ君はそれらを全て流れるように躱した。
ああ強くなったね。君はあの頃より、さらに。ずっと。ならざる、を得なかったんだね。口端から血が流れた。
イタチ君が、次は此方の番だと言わんばかりに目を赤くし模様を浮かび上がらせる。私はそれに咄嗟にイタチ君を乱暴に押し倒した。力任せもいいとこだ。

「目は、使っちゃいけない。負担が大き過ぎる」

なんて突然襲って来た輩の妄言を聞くなんて、イタチ君はそんな甘い人間ではない。
けど、イタチ君は瞳術を使いはしなかった。体術を駆使して私を乱暴に退かせ構えるその姿は、私を陽だと気づいている訳が無い。私は今、確かに彼の敵で、私が襲って来た理由を吐かせ必要があれば殺すべき存在として見られているのは解る。
イタチ君は木の葉から流されている情報として、緋兎を知っているはずなんだ。あまりにも謎が多過ぎる暗部の末端としての、緋兎を。

ああ、嬉しいな。気づいてないけど、きっと何処かで微かの微かにはやっぱり気づいてくれているんだ。

「少し見ない間に、随分と暗部のレベルが上がったらしいな。お前で末端とは」
「あはは、いえいえ私が少し特殊なだけだすよー。暗部は、貴方が居た頃から良くも悪くも変わらなくって、私は頭を抱える日々だす」
「…」

イタチ君の瞳が揺らぐ。私も揺らぐ。


――刹那、ごっつい大剣が私とイタチ君の間を斬り裂き、切ない空気をめっためたに破壊した。

「ちょっ、再不斬さん?!いえ、貴方の性格考えれば此処まで保ってくれた事が拍手な気もするけどっ!これでも私色々と感動の再会に向けてどんな風に明かそうかな、るんるん!って!考えてたんだけども…!」
「煩ぇな、俺はとっとと帰りてぇんだよ。おい、うちはイタチ。コイツは火影も暗部総隊長も顎で使うでけぇ功績上げた元暗部の総隊長な野郎だ」

野郎って!私女の子なんですけど?!そこを偽った事は今まで無いんですけど!てか、顎で使ってないもん!!
ぅわあぁあああん!!再不斬さんが勝手に付いて来た癖に私の感動の再会ぶち壊したあぁあああ!!

「殺気向けられて泣きそうな顔するぐらいなら、僕もまどろっこしい事せず早く感動の再会に入るべきだと思いますよ」
「…いつ私がそんな顔したのよ」

塗り潰すような赤が、可愛いうさぎちゃんが、私の顔を覆っているはずでしょう?
…はぁ。シリアスは、嫌いなんだけどなぁ。仕方ないね。

私は私を凝視しているイタチ君へとゆっくり歩いて行き、距離を縮めた。さっきまで刃を交えていた相手の接近なのに、イタチ君はただ、私を凝視し続けていた。

「……」
「私が、誰かわかる…?」

最後に少しだけ声が震えてしまい、慌てて取り消せない事実をそれでも隠すように唾を呑み込んだ。
イタチ君が、混乱したように額に手をやる。揺れる瞳を私から振り切るように外すと、地面を睨んだ。

「…彼女は、死んだ。俺はそれを確認したんだ」

さっきの私の声よりずっとイタチ君の声は震えていて、…私ももう、隠す必要ないね。
私はイタチ君の手を握った。強く握った。イタチ君は顔を上げる事はなく、けれど抵抗もしなかった。

「うん、ごめんね。っごめんね。…イタチ君を此処まで追い詰める彼等から、護り切れなくて、ごめんね。傍で手を握る人全てを奪わせてしまって、ごめんね。絶望の中でたった一つの希望になれるだけの力があったのに、アナタを地獄に遺して、不甲斐ない、上司で、っごめんなさい…!」
「ッ謝るな!!」

弾けるように顔を上げたイタチ君が怒鳴る。
それからはっとしたように、揺れる瞳で、今度はしっかりと私を捉えた。イタチ君の手が私の兎の面に伸びる。

「…貴女は、何も謝らないでください。貴女は俺の、俺達の太陽でした。俺の事で貴女の責任は何も無い。謝るのは……っ護れなくて、すみませんでした…!!」

イタチ君の手により落とされた兎の面は、私のあの頃の陽に変化していた顔を月明かりに晒し、それでもその顔を見ずとも確信しているイタチ君は私を見る前に頭を下げた。

「じゃあ、お互い謝るのはやめようか。私ね、それより言いたい言葉があるんだー」
「…何ですか?」

何事もなかったように言ったけど、イタチ君への罪悪感はきっとまだまだ私を蝕むだろう。あんなにもあっさり火影様を私が許したのは、自分の罪こそ強く自覚していたからだ。
私が、もし生きていたら。何も出来なかったかもしれない。でも違うんだ。もしかしたら出来たかもしれない、その空想が無意味でも、イタチ君が全く思わなかったわけがない。そう思わせてしまうだけの希望を私は持っていて、そして潰した。
本当はもっと謝りたかった。何度止められようと泣き叫んでずっとずっと一生分のごめんなさいをアナタに、でもそれは私の自己満足で、それではイタチ君はちっとも救われない。
だから私のする事はもう、過去への謝罪じゃない。大丈夫。何に変えても今度こそ、私はアナタを救ってあげる。希望でアナタを満たしてあげる。太陽の下を歩かせてあげる。だから今は、誓いと代わりの言葉として言おう。

「ただいま、イタチ君」
「…」

あれ?

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