盲信、というのは実に恐ろしい思考だ。
実績があるないは関係ない。どんな事をしたって、あの人の事だから何か考えがあるに違いない。あの人はそんな事をするはずがない。あの人ならこうするだろう。尊敬信頼信仰が作り出した虚像。本来の人間から良いところだけ抜き取ったようなそれは、利用しやすく、脆いのに固い。哀れな程に愚かな思考だ。

「ああ、気持ち悪いな」

自分がダンブルドアを盲信しているなんて気づいてもいないのだろう、七年生のいかにも真面目そうな女子生徒の足元を早足ですり抜け、思わず嫌悪の言葉を溢した。
普通の信頼から盲信までの線引きは曖昧だ。いつの間にか人は盲信に至っている。
私もホグワーツ創設者の彼等も盲信される側の類だが…私だって、今覚えばかつてはサラを盲信していた。リドルには、違う。信じてはいるが、盲信には至っていない。

猫のアニメーガスが私を追ってくるのを気配で感じ、ホグワーツでかつて暮らし、日常的に猫として生活している私を嘗めるなよと、ホグワーツの狭い抜け道や隠し通路を駆使してすぐ撒いてやった。
まったく、私が気になるのはわかるが自分の教徒にストーカーを命じるのはやめて頂きたいものだ。


「リーラ」

上手く撒いた事だしそろそろ部屋に帰ろうかとスリザリン寮まで歩いていると、寮に入る前の廊下で丁度寮から出て来たアルファードに呼ばれた。
普段なら私を呼ぶのではなくお前が来いと鼻で笑うところだが、私の目的地もそっちの方だし初めて名前を呼ばれたので仕方なく私から歩いて行ってやった。光栄に思え。

「にゃあ」
「は?…ああ、外じゃ英語話せないんでしたねー。つか、お前どっちが本体なんだよ」

考えても馬鹿な頭じゃ無駄だろうに難しい顔をするアルファードの脚の間をあえてすり抜け、閉じられた寮のドアがある位置を爪でカリカリと引っ掻き、またアルファードを見て一鳴きした。

「お前どうせ合言葉ぐらい知ってんだろうから、開けられんだろ…別にいいけどさぁ」

言葉の割りに不本意そうな表情で、アルファードは頭をがしがし掻きながら私の隣に並んだ。

「蛇の目。…ほら開いたぞお姫様」

僅かに、と言うか中途半端に芝居がかり切れてもいない皮肉のような台詞を吐いたアルファードを鼻で笑い、口を開く。

「似合わないな」
「っテ、メ!此方がちょっと優しくしてやりゃ図に乗りやが、」
「ブラック家、貸し」
「……っぐぅ」

たった二つの単語を呟くだけで伸ばした拳を容易く引っ込めたアルファードに、再度鼻で笑う。馬鹿正直というか、スリザリンなのが不思議な奴だ。

「アルファード、お前合わないならとっとと家から離れた方がいいぞ。死んでからじゃ遅い」

丁度談話室に人気も無かったから、リドルの部屋へと歩きながら背後に嘯く。ちょっとした親切心だ。他意は無い。

「お前に言われなくても…わかってんだよ、…そんな事」

沈んだ声で後ろから自信無さ気に返された言葉に、仕方ないから一瞬だけ振り返ってやる。

「どうだか」

お前は優し過ぎて情が深過ぎる。
お前は私達と違って、お互いも世界も何もかも、捨てるのに躊躇しぐだくだと迷い続けるんだろうよ。

さっさと捨てとけ。選べるうちじゃないと余計に後悔するぞ。

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