本当は解っていた。だから知らないふりをした。

「でも、そろそろ潮時か」

今の自分がどんな表情でそれを呟いているかなんて知りたくもないが、最近の私の思考状態はいい加減無視出来ないレベルだ。
あの頃だったら気持ち悪いと即座に吐き捨てるようなこの思考を、今の私は悪くないと思える。だけど、縛られるのは好かないんだ。

私は封鎖された女子トイレの前に猫の姿で歩いて来た。
女子トイレは事件があった事と、被害者のマグル生まれの女が幽霊となり住み着いているせいで周囲に人影は無い。
私は人間の姿となり、ドアを開けた。

「お客さん?あらあら随分と綺麗な人、私と正反対。でもこういう女って性格悪いのよね。あんたもそうでしょ?何?ブスで根暗なマートルを笑いに、」
「黙れ」
「…な、何よ。わざわざこのトイレまで来といて…」

煩い幽霊に一睨みすれば、やっと幽霊は黙り込んだ。
事件の容疑者に加担した身としてはもう少し被害者の幽霊には優しくしてやるべきなのかもしれんが、生憎私は善人ではない。気に入ってる奴以外がどうなろうが、それが私のせいであろうが、興味は無いのだ。

「私。開けて」

私専用の秘密の部屋への入り口場所が此処な事にやはり不満を覚えつつも呼びかければ、入り口は以前と同じく簡単に開いた。
躊躇無く飛び込んで、今度はまたキザな真似をされる前に自分で魔法を使い落ちるスピードを緩める。
バジリスクの居る部屋の前、自動で開いたドアをそのままに私は動かなかった。私が行かない事が分かったのか、ドアは勝手にまた閉まる。

生前、アイツは大抵研究室か私の部屋に居て、私からアイツの部屋に出向く事なんて滅多に無かった。
むしろこの、バジリスクの居る飼育部屋に行く機会の方が多くて。飼育部屋に直通させてしまった方が都合が良かったし、もしいつか誰かがサラザールの自室の存在を探し此処に辿り着いた時、バジリスクに始末させるのは手っ取り早い。

だから、サラザールの部屋に行くのには合言葉が必要で。

「リーラ」

もしかしたら、私の死語合言葉は変わったかもしれない。いや、かもじゃなくてきっと変えただろう。
そんな私の考えを否定するようにそれはあっさりと、大きなドアの下、人一人が出入りするのに適した大きさのドアが現れた。
揺れる瞳を隠すように目を閉じ、深く深呼吸をした。

私は此処に、会いに来た。
柄にもなく震えそうになる体を叱咤し、目を開きしっかりと前を見て、ドアノブに手を掛ける。
創設者のあの四人が、記憶を此処に残していないわけが無い事は解っている。


「おや、お客さ――」

悪いな、サラ。お前に一度殺されたのに、会いに来てしまったよ。

「リーラ…?」
「久しぶりだな、サラ」

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