悪いことなんて、するもんじゃない。

私は自分の顔から下を見ながら初めてそう思った。
一生涯やら今まで生きてきて初めて、とは言わない。何故なら私は、死ぬまで一度足りともそんな事は思わなかったし、いっそバレなければ悪事をやるに越したことはないとさえ思っていた。

そう、私は闇の魔法使いだった。それも千年に一人居るか居ないかの優秀な。
この魔法界で私を恐れぬ者は居なかったし、数えきれぬ程の悪行を重ねた。
一つ悔やまれるのは、あの男と恋人関係になどなったことだ。奴はお前の為だ、なんて戯言と共に私に死の呪文を放ってきた。そうして私は死んだ。


さて、ではその死んだ私が何故自分の一生について話せているか。
それは即ち、私が転生したからだ。
何、これに関してはそう驚きはしない。ましてや…悪いことなんてするもんじゃなかった、と悔いたりはしなかった。
問題は私の姿だ。


「…何ゆえ、猫」

目が覚めたら綺麗な毛並みの黒の子猫になっていた。死にたい。
ところで何故か話せるんだが、この言語を人間は聞き取れるのであろうか?はは、いや何、ただの現実逃避だ。

「……にゃーん」

猫らしく鳴いてみた。
虚しい。
もう二度と悪事を犯さないから人間に戻して欲しい。
自分に魔力を感じて、希望だ!と魔法を使えるか試したら今の自分の手のサイズの火の粉が出ただけだった。死にたい。

私は現在、捨て猫らしくお約束もいい事に段ボールの中に居る。
とりあえず、今でこそ私が私の今の姿を確認した水の張った容器だけはあるものの、このままだと餓死や凍死は免れないので此処から脱け出そうと思う。

「ちっ…端処理しとけよ」

あー段ボールの端が肉きゅうに突き刺さって痛い。
まぁとりあえず、脱け出せたし周りを見渡す。…薄汚い路地裏だ。
このまま立ち止まっていても仕方ないので、この路地を抜けるべく歩き出す。

…歩くの遅い。


やっと明るい道に出る、という所で人の脚が見えた。
思わず微かに肩を跳ねらせ二歩後退る。前の私なら自分以外の大抵の人間なんて見下す対象だったのに。

「猫…?」

ちっ…気づかれたか!
私は反射的に身を翻そうとして、その少年の顔を見た。

足が止まった。

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