しなやかで細く長いふわふわな手足を伸ばし颯爽と渡り廊下を歩く。
「あ、トム・リドルの猫さんだー!」
私はすっかりスリザリン寮だけでなくホグワーツ中で有名になっていた。
自由気ままに闊歩していると進路に人の足が立ちはだかり、私は相手を見上げた。
「やぁ、お嬢さん。わしと少しティータイムでもいかがかの?」
「…」
お嬢さん呼ばわりされる歳でもなければ、生まれた時代は今生きるどの人間よりも昔なんだがな。
私はにこにこと微笑む老人を見上げた。変身術の教師で、バジリスクの事件以降ただ一人リドルを疑った相手か。
「にゃー」
まぁ、私は別に構わない。
私をだしにリドルを呼び出そうが勝手にしてくれ。リドルは閉心術使えるし、そうそうボロは出すまい。
私はあっさりと教師に付いて行った。
「ミルクでいいかね?」
「にゃあ」
出されたミルクは有難く頂戴した。猫になるとコップ一杯の量の飲み物でも飲むのに時間が掛かって面倒だ。
私は黙ってミルクをぴちゃぴちゃ舐める。教師はそれの何が楽しいのか笑顔を貼り付けながら私を見ていた。
やがて全てのミルクを飲み終えた私は顔を上げた。
「お嬢さんはリーラといったかな?」
「にゃん」
一つ返事をして、また黙って教師の顔を見る。
「トムはね、可哀想な子だ。君が支えになってあげて欲しい」
「…にゃ」
目を細めたその顔は慈愛に満ちていて、私は辛うじて返事をした。
成る程、何とも…英雄の素質に溢れた輩だ。コイツの支持者は多いだろう。
私の嫌いなタイプだ。
それから私は適当に教師の他愛ない話を流し、息を切らせたリドルがノックもせずにドアを開け放ってすぐ滑るようにお暇した。
「え?!わ、リーラ危ない…!踏んだらどうするんだよ?!」
「なーぉ」
そうなった暁には十倍返しにするから安心しろ。
その後、少し落ち着いたらしいリドルが私の事で教師へと抗議するのを後目にさっさと部屋に帰り丸まった。
…ああいう輩は見ているだけでも疲れる。
一見綺麗の塊だからな。そこそこそいつの事を知っている奴が一番心酔する。
あの笑い方をする輩を信用なんて、私からしてみれば信じられんな。
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