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四限目、照り付けてくる太陽の下で全力で身体を動かしていた。

「す、凄い!えー、紗良ちゃんすっごいテニス上手いねー!」
「ありがとう」

休憩中だった佐野さんが私が試合に勝つや否や立ち上がって拍手しながら走り寄って来てくれたのに、大袈裟だなと思いながら笑顔でお礼を言った。
でも確かに、つい一月程前まで現役で女子テニス部レギュラーだった子に勝ってしまったのは結構凄い事に分類されてしまうかもしれない。

「やっぱり彼氏に教えてもらったり…あ、むしろ一緒に試合したり?!」
「え、うーん…赤也君とテニスした事はないよ?」

というか赤也君は私がテニス出来るなんて知らないだろう。幸村君も。
和やかに会話していた私達の元に、さっきまで私と試合していた女テニのレギュラーだった子が鋭い目つきで向かって来るのが見えた。佐野さんは慌てたように私と彼女を交互に見て、そんな佐野さんに私は苦笑する。

「水代さん、何でテニス部入らなかったの?」

苛立ちと共に放たれた言葉は、けれどそれだけの意味では無い事ぐらい察せた。きっと彼女はテニスも、テニス部も好きで、幸村君と同じなんだなぁ、と私は無意識に今の彼氏ではなく前の彼氏を思い浮かべた。

「私のテニス、これ以上強くなる事が無いんですよ」
「…壁って事?そんなの誰にでも、」
「そうじゃなくて。…テニスをする意味が無いんです。強くなりたくもないし、感情も無い」

私は元々、テニスを好きでテニスを始めたわけではない。

「…感情って、それどうでもいいって事?」
「はい」
「そんなのおかしい。無関係な奴がって言われようが言うわよ。あなたのプレイスタイルで、テニスに感情が無いわけがない」

感情が無い人が出来る程度の努力では無いはずだ、と苛立ちの声を上げる彼女。女子テニス部は…確か全国大会には行ったものの初戦敗退だったか。

「本当ですよ。今は感情、無いの。始めた頃は色々複雑な感情持ってたけど、もうそれは返って来ないものだから」

感情を持たない私がテニス部に入るのは、テニスが好きな人を冒涜するに等しい。私はきっとレギュラーになれるだろう。テニスが好きで、テニス部が好きで、誇りを持ってテニスをしている人達を差し置いて。

「それでも…アンタが居たら、きっともう少し、」
「それはエゴですよ」

言われずともわかっていて他人になんか言われたくない事だと知りながら、想いを踏み躙るように軽く私は毒を吐いた。
私を涙目で睨みつけ足早に立ち去った彼女に、私は本当に敵を作るのが上手いなと感嘆した。そう、感嘆だ。

全ては私の思い通りに、事は進んでいる。

                


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