6 放課後、私は美術館に行った。今日から公開されるそれを私は前々から楽しみにしていた。美術品に興味を持ち始めた理由が幸村君でも、今私が美術品を好きなことに変わりはない。 「…水代か?」 聞き覚えのある声に顔を上げれば、美術品より美しい顔に思わず一歩後退った。それに目の前の彼――跡部君は呆れた顔をする。 「初めて会った時から変わんねぇな、お前は」 「…そっかー」 跡部君に変わらなく見えるなら良かったと私が笑えば、跡部君は顔を歪めた。 瞬間、私は自分の失敗を悟る。インサイトという名らしい跡部君のこの観察眼は厄介すぎる。 「何があった」 「…疑問系にしようよ」 「煩ぇ。下手くそな笑い方しやがって」 睨み付けながら心配してくれる跡部君に、ため息を吐いて作っていた表情を消した。バレたなら続けても意味ないし、意識的に表情作るのって意外と疲れるんだ。 跡部君相手にいくら隠したって無駄なことぐらいわかりきっていた。やっぱり駄目だったか。だから落ち着くまで会いたくなかったんだけどなぁ。何でこんなに気が合っちゃうんだか…。 跡部君に初めて会ったあの公園も…普通、お互い何となくで来たのに会わないよね。前々から変に気が合っちゃうから…一緒にいて、楽しいんだよねもう。 「酷ぇ顔だな」 「知ってるよ。だから頑張ってたんだから」 「ハッ!…だが、さっきよりはずっといい」 跡部君の言葉に一瞬きょとんとし、そんなに下手くそだったかと苦笑した。それにしても、どっちにしろ酷い顔なのか。女の子に言う言葉ではないよ。 「で?」 「うーん…話すと長いし、跡部君忙しいでしょ?」 「よくあるかわし方だな。時間は気にするな、今日は部活ねぇしな」 「あー…そういえば」 言われてみれば、跡部君は氷帝テニス部の部長なのに今此処にいる。それはつまりそういうことか…。でも跡部君は生徒会長とかもやってて忙しいし、時間はあってないんだろうな。やっぱり私のことで跡部君の手を煩わせるわけには… 「はぁ…お前わかりやすいんだよ、バカが。俺は俺が聞きたいから聞いてんだ。さっさと言え」 「横暴」 「アーン?」 「ごめんなさい」 私が素直に謝ると、跡部君は笑いながら私の腕を掴んだ。 「え、あ、跡部君?!」 「立ち話もなんだろ。いいから黙って付いて来い」 強引に半ば引きずられるように引っ張られながらも、跡部君の気遣いを痛い程に感じて泣きそうになった。 優しさは、痛い。 |