39 一限開始のチャイムを遠くに、私は無気力に座り込んでいた。制服が汚れるとかそんな事も気にはならない。 私は、幸村君に確か、前とても悪い事をした気がする。覚えていない。ううん、違う。だって昨日の私は知っていた。きっと覚えてないんじゃなくて私は、、 「あーサララサボりだー!いっけねぇんだー!」 はっとして私は思考の海から浮上した。ついさっきの事なのに何を考えていたのかは覚えていなかった。…ま、いっか。 顔と視線を上げれば太陽をバックにその眩しい金髪を輝かせた菅野ちゃんが、悪戯っぽく笑っていた。私は呆れた顔をする。 「…私にそう言える菅野ちゃんはじゃあ何なのかな?」 「サボりじゃねぇもん。俺はお花の罪を暴きに来たんだ!…聞いた?俺暴くとか言ったよ?!頭良さそうじゃね?!」 一人で興奮して自画自賛をする菅野ちゃんに、首を傾げる。お花の罪…?仲良いみたいだし仁王君にでも昨日の事聞いて、皮肉? 「お花って私の事?」 「え、知らない」 真顔で即答して、手を横に振られる。…何で自分で言った事を知らないんだこの人は。 でも、うん、そうだよね。菅野ちゃんそんな遠回しに皮肉言うようなキャラじゃないよね。ごめん私が汚れてた。 「まぁいーや!サボりなお花ちゃんに付き合って俺もサボってあげよう!あ、でも2限は出るぞ!」 「…ふふ、はーい」 菅野ちゃんの勢いに釣られて笑う。 菅野ちゃんはそよまま私の正面にあぐらをかいて座った。隣じゃなく前に座る辺り、話す気満々というかコミュニケーション能力の高い人だなとぼんやり思う。 「そういえば、菅野ちゃんって仁王君に陽一さんって呼ばれてるんだね」 「おう、サララも呼んでもいいのよ?」 「やーだ。菅野ちゃんが名前で呼ばせるのは落としたい子なんでしょ?」 「くっ…奴等が要らない事をサララに吹き込んだばっかりに!」 地面を殴って大袈裟に悔しがる菅野ちゃんにクスクスと笑う。楽しい。 私に必要なのはこんな風に何も考えないで笑える時間なのかもしれない。でも、…でも? 「菅野はねー、別に女の子が好きなわけじゃねぇんですよ。女の子を惚れさすのが好きなの」 「わー、聞いてないのに酷い事言い出した」 「それとえっちい事が好き」 「菅野ちゃん、黙ろうね?」 笑顔で威圧すれば、菅野ちゃんは笑いながら両手を軽く上げて降参のポーズをとった。 それからちょっと困った顔をする。 「だからね、正直本気の恋とか訳わかんねぇの。そっちが俺を好きで気持ちよければいいじゃん?って思って来たの。だからね、だから…サララの苦しいの俺わかんない」 がしがしと頭を掻き回して、菅野ちゃんはやっぱり悲しそうな顔で困ったように言った。…似合わないなぁ、その顔。 「そんなに私、幸村君の事気にしてるように見えるかなー?」 「仁王から聞いた。幸村の事は話さないって最初に言ったって」 仁王君から、という言葉にどきっとしたけど昨日の話じゃなかったから胸を撫で下ろした。そうだよね、最初にそんな事言ってたら気にしてるって言ってるようなものだよね。 「サララはさ、幸村の事まだ好き?」 それは、実は誰にもまだ、一度として聞かれていない事だった。私は目を伏せる。 その質問には答えられないんだ。答えが、無いんだ。 「私の恋人は赤也君だよ」 その選択が正しいか正しくないかは関係ない。 |