38.5

始業のチャイムが鳴っても、僕の後ろの席は埋まらなかった。
つまりサララが来ない。

「サララ体調悪ぃのかな?メールしたけど返っても来ないのだけども」
「風邪で寝てるぐらいならいいんだけどね…」

ホームルームが終わってすぐ僕とサララの席の近くまで来た菅野ちゃんが口を尖らす。ちなみに今日も遅刻して来た菅野ちゃんは必然的にホームルーム中に一番前の席にも拘らずメールを打った事になる。どれだけ教師嘗めてるんだよとは思うけどそこまで真面目じゃないから注意する気はない。
それより昨日の今日でサララが学校に来ないとなると…やっぱりタイミング的にただの風邪とは思えない。精神的な負荷から体調を崩したと言うには、菅野ちゃんと一緒に来たよっしーがさっきから黙ってるし。

「よっしー、なんか思ったなら口に出してって。それに頼るのをよっしーが好きじゃないのは知ってるけど、後悔するのの方が嫌いでしょ?」

何か考え込むように黙っていたよっしーを急かすように言えば、よっしーは我に返ったように顔を上げた。

「ああいや、うん、わかってる。サララに関しては俺もそのつもりなんだけどさ。別に嫌な予感はしてなくて…でもなんか変な感じで…なんか、ごめ、言葉に出来ねぇや」

俺菅野ちゃん程ボキャ貧じゃねぇのに、とよっしーは引きつった失笑をする。
僕は五秒沈黙して思考を巡らせ、結論を出す。

「菅野ちゃんはなんだか急にお腹が痛くなった」
「?!え、それあれ?!あなたは段々眠くなるみたいな?!」
「お腹痛い?」
「…い、痛くなってきた気がする!」

ガッツポーズは要らないんだけど。まぁいいや、菅野ちゃんに演技力なんて期待してないし。

「うん、じゃあ先生に菅野ちゃんはお花を摘みに行ってますって言っておくね」
「お花…?」
「菅野ちゃん、一限終わるまでちょっと校内外駆けずり回ってサララ探して来て」

トイレだと通じてなさそうな菅野ちゃんを無視して、率直に本来の指示を出した。

「見つからないように駆け回るの、得意でしょ?」
「イエス!大得意!!」
「え、いやお二人さんってかあずみん…?!」

にやりと笑えば、菅野ちゃんも笑顔で敬礼を返す。そんな僕等に慌てて詰め寄って来たよっしーにも、安心させるように笑みを浮かべる。
まぁよっしーの焦りも当然だと思う。サララが学校付近に居るのなんて僕の勘。当然僕にはよっしーみたいに人並外れた勘はない。
つまりこれは、何の意味もなく菅野ちゃんにサボりを強要しているに近い状況だ。でも。

「不確定要素には先手を打ちたい性分なんだよね」

誤魔化すのは僕が一番得意で体力は一番菅野ちゃんがあるんだから仕方ない。適材適所でしょ。僕、二人に気遣う気ほぼ無いから。

「俺のくっそぼんやりとした意見でよくもそんな結論を…」
「何?惚れた?僕男は願い下げ」
「何も言ってないのに俺フラれた。つらい」

やっと笑ったよっしーを見て、僕はじゃあよろしくと菅野ちゃんの背中を軽く叩いた。

「うん!菅野お花の罪に行ってくる!」
「なんか違うけど頼んだよ」

今度お花摘むの意味を教えてあげよう。
廊下に飛び出して行く菅野ちゃんの背中を見送っていると、そのすぐ後廊下を通った人と目が合った。

「…よっしー、僕昼休み予定出来たからお昼他の人とよろしく」
「おう、わかった!」

日付を確認して、今日は菅野ちゃんも無理だけど友達の多いよっしーなら問題無いだろうと軽く言った。
よっしーには何でもすぐ言えと言った癖に僕が言わないのはどうかとも思うけど、僕だけの問題じゃないから仕方ない。
何より此処は人目があるから言えやしない。メールしてもいいけどこれは急ぐ事じゃないし、分かりやすく要約した事後報告を二人にした方がいいだろう。
そう結論づけて、予鈴のチャイムに自分の席に戻るよっしーには現段階では何も言わない事を選択した。

「安住君やっぱり過保護」

よっしーと入れ代わるように隣から突然話し掛けられたのに驚きはしなかった。話聞かれてるのは気づいてたし。

「佐野さんだってサララ心配でしょ?」
「そりゃ心配だよ!でも私はそこまでしないもん」
「考え方の違いだね」

納得してなさそうな佐野さんに笑顔で話を終わらせて、机に頬杖をついた。
…佐野さんねぇ?別にいいんだけど、今はサララが平常じゃ無さそうだからちょっとなぁ。

いっか。いざとなったらこれは僕が悪者になれば済む話だ。
それより昼休みの事を考えよう。聞きたい事も話したい事も山程あるんだ。時間内で終わるように厳選しておかなきゃ。

                


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