36

「水代は、最終的に何がしたい」

私は大きく目を見開き、柳君を見た。柳君は真剣な表情で私を見ていて、堪らず目を泳がせる。
予想外の質問だった。だって私はてっきり――

「…どうして別れたのかって、聞かれると思ってた」
「それは、感情面としての目的のみなら俺でも察しているからな。お前の最終目的よりは重要じゃない」
「そっか」

微笑んで話を終わらせる。
わかった気になってるだけで、きっと何にもわかっちゃいないんだろうなぁ。だって、本当にわかっているなら友人想いのアナタはそんなに穏やかに話せるはずがない。
えっと…何だっけ?私の目的?まぁ此処最近の私は目立ち過ぎてるもんね。言い換えれば、動き過ぎてる。柳君が不振に思うのも頷ける。

「うん、いいよ教えてあげる」
「いいのか?」

まさか本当に教えてもらえるとは、なんてわかりやすい顔の柳君に思わず声を立てて笑う。
別にいいよ、君なら。私が聞いて欲しいとふっかけたんじゃない。これは聞かれた事に答えるだけなんだから。

「誰にも言ってないから、他の人には内緒よ…?」
「…その割りには、随分と楽しそうな顔だな」
「だって楽しい話題だから」

ふふ、と心からの笑みを送る。頭の中のあの人に。


「会いたい人が居るの」
「…は…?」
「その人ね、今は外国に居てね…でも、私が頑張ったら会ってくれると思うから。今は頑張るしかないの」
「……すまないが、その人物との水代の関係性や、頑張れば会えるの意味から教えてもらえるか?」
「私の永遠に一番大切な人。頑張れば会えるは、そのままかなぁ…頑張らなきゃきっと、会いに行ったとしてもあの人は会ってくれないんだ」

わたしはただ、またあの頃みたいに二人で生きたいだけなのに。
財布の中から未だに出せない航空券は、本物だけど渡したその真意が偽物だったなんて知っている。それでもわたしはそれを捨てたりなんてしない。偽物だって、構わなかった。
予想だにしていなかったんだろう、きっと柳君からしてみれば意味不明な事を言い募る私に、困惑した顔で逡巡するように眉間に皺を寄せる柳君。考えても無駄なのに。だって私は、嘘吐きだ。

「だから私の今の目的は、頑張る事。そして最終目的は、あの人に会う事。柳君、誰にも内緒だからね?」

わらって言うだけ言った私は、床に降ろしていた鞄を持ち直し屋上を出た。
あの解放された空間の後では、校舎の中はまるで獄中に閉じ込められているみたいだと思った。部活に入っていない生徒はもうほぼ皆帰っていて、廊下を歩いていてもすれ違う人は多くない。

頑張る事、なんて。今日も飛んだ嘘を吐いてしまった。あーあ、会いたい。

                


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