31 教室に帰ってすぐ、教室中の視線をまた集めてしまって、最近の自分目立ち過ぎてちょっと気が引けるなぁと苦笑した。 「サララ、おかえりー」 「ただいま」 あずみんに笑顔で出迎えられて、笑顔で返す。赤也君に指摘された事を思い返し、あずみんを真っ直ぐ見ながら笑った。 「やっぱりね」 「ん?よっしー何か言った?」 「うん。サララ、今のはいいけど本気のは無闇に人に向けないようにな」 「はい?」 意味がわからずよっしーを凝視したけど、よっしーはこれ以上何かを言う気は無いようだった。何よー、もやもやするなー。 こういう時さらっと説明してくれるのはあずみんなんだけど、あずみんは私を出迎えてくれた後は下を向いて何か書いている。生徒会は大変そうだなぁ。 「俺は大歓迎!」 「ダメだコラ!菅野ちゃんはその辺の女と遊んでなさい!」 いや、それもそれでどうかと。 主旨がわからない会話に困った顔でどうしたものかと考える。まぁ放置しても問題無いかな。 「あ、あの、水代さん」 「ん…?」 突然後ろから声を掛けられ、振り返ると佐野さんが居た。このクラスの女子の学級委員長。 「あれ、何か提出物ありました?」 「ううん、そうじゃなくて。少し水代さんと話したいなって。駄目かな?」 よっしー達関連の呼び出しにはもう応えてあげる気は無いけど、それなら本人達の目の前で話さないだろう。 佐野さんは男子ウケも女子ウケも結構いい、可愛がられるタイプの女の子だ。委員長というよりは書記とかやってそうだけど、委員決めの時綺麗に真っ直ぐ手を上げ、やってみたいです!とキラキラした目で言うからクラス皆、異議を唱えはしなかった。むしろ応援していた。 事務要件ぐらいとはいえ多少会話した事はある。まぁ、断りはしないよ。 「いいですよ。お話って?」 「私相手に敬語なんていいよー!出来ればあんまり人目つかないところが…」 「もう授業始まっけど?」 菅野ちゃんが横からいきなり口を挟んで来て、ちょっと驚いて菅野ちゃんを見ると…あれ、何だろ。何だか微妙に険悪な空気?どことなく菅野ちゃんの目が冷たいような…。 菅野ちゃんと佐野さんって仲悪くは無かったと思うんだけど…そんなに話してるの見た事無いけど、話す時は普通に話してたよね?後は…あずみんと佐野さんが話してるのもあんまり見ないけど、よっしーとはわりと話してたような。まぁ、よっしーはほぼ皆と仲いいんだけど。 「そうだね、ごめん!うんと…安住君達の前で話した方がいいかな?」 「ん?ああ、まぁその方がちょっと安心かなー。サララ危なっかしいし。佐野ちゃんごめんねありがとー」 「ううん!全然!」 あずみんは一瞬だけ顔を上げ佐野さんにお礼を言うと、また下を向いて何か書き始めた。 その一方、よっしーは何か考えるように黙り込んでいて、菅野ちゃんはわかりやすく此方と言うか佐野さんを警戒している。 「水代さん、まず謝らせて。…ごめんなさいっ!」 「え?」 いきなり頭を下げた佐野さんに、私は虚をつかれぽかんと佐野さんを見た。 「もっと早く声掛ければ良かったなんてわかってたけど…勇気無くて、今まで何も言えなくて、ごめんなさい。こんな私でも良かったら、許してくれたら、友達になってくれませんか?!」 顔を上げたと思ったら、今度は泣きそうな顔をしてまたすぐ頭を下げた佐野さんに、私は本格的に弱って頭を掻く。 「えっと、ごめんなさい、わからないんだけど…何の謝罪?」 「だ、だから、水代さんが嫌がらせ受けてるのとか何もしなくて…」 「それならいいよ、私の問題だし。でもありがとう。友達だっけ?私で良ければ此方こそよろしくお願いします」 恐縮し私を窺うように言った佐野さんに、笑顔で手を差し出した。 「え?」 「?どうしたの、あずみん」 「ああ、ごめん。資料で変な箇所があっただけ」 「そっか」 水を差されたような気分になりながらも、改めて手を差し出す。…ダメだ、視線が気になる。 「菅野ちゃん、睨まないでよ」 「別にサララ睨んでねぇもー」 「佐野さんの事も睨まないで」 菅野ちゃんのこの明からさまな佐野さんが嫌いです、という態度は本当に何なの。菅野ちゃん好き嫌い激しそうだから嫌いな人が居る事に関してはそう不思議には思わないけど、佐野さんとは今まで何も無かったよね? …いいや。菅野ちゃんは気にしちゃ負け。今度こそ。今度こそ手を―― 「っああ、もう!よっしーは何?!」 「…いや、お前自身気づいてないんなら、いい」 よっしーの神妙そうな表情と歯切れ悪い言葉に軽く苛つく。 もういい、わかった。握手はやめる。とりあえず授業始まる前に席に着こう。 「ごめんね、佐野さん」 「ううん!全然!」 晴れやかな笑顔だった。 |