29.5

僕は自分をとても冷たい人間だと思っている。
何故なら中学入り二年になってよっしーと菅野ちゃんと仲良くなるまで、人の為なんて一度だって考えた事が無かったから。

今でもそれは変わらない。それ以外のものは全部がフェイク。
ただ一つ、最近そのたった二人だけだった親友の枠組みにもう一人、仲間が増えたけど。


サララの事を、不謹慎だけど面白い子だと思う。こんなに頭を使わされる相手は初めてだ。
大抵、少し話せばその相手の特性が解る。老若男女問わず秘密を吐かせるのはお手の物だし、自分の思い通りに事を運ばせてきた。

「で、あずみん答え出たの?菅野ちゃん程じゃないけど、俺も頭使うの苦手よ?」
「ん、まぁある程度。今解る範囲の事は」

クラスの奴等に聞かれたくないから、昼食とりながら生徒会室で三人で話す。
生徒会室の鍵を管理してるのは会長じゃなく僕だから、入るのは容易い。まぁ信用されてるわけですよ。

「僕、サララの前の席でしょ?だから皆がサララの異変に気づく前のサララの寝言、聞いてたんだよね」

授業中にお弁当なんて食べられないと一時間我慢するようなサララが授業中に寝るなんて、不自然だなと気にかけていた。
目元に隈も無かったし、寝不足にも見えなかったのに。

「最初、聞き取れなかったんだけど…何度か同じ言葉言ってたからわかったんだよね。サララずっと、はるか、って言ってた」
「…誰かの名前?」
「たぶんね」

友達か、姉妹か、その後魘されるなんて思いも寄らないような優しくて幸せそうな声で繰り返していた。

「きっとよっしーに笑ったアレは、はるかさんに向けられた笑顔だったと思う」
「…え、幸村にじゃなく?」
「ん?ああ、元彼だったね。でもはるかさんを呼ぶ声の調子とあの笑顔はセットだよ」
「……むん、まぁあずみんが言い切るんだからそうか」

言葉の割に何処か釈然としない様子のよっしーは少し気になったけど、昼休みも限られてるから話を進める。出来ればサララより早く教室に着いて迎えたいし。

「サララは…まぁあの女子達の言う通りだって認めるのは癪だけど、あんまり虐めに関しては気にしてなかったと思うんだよね」
「何故にそう思うん?」
「他人にそこまで興味が無いから。それに関しては僕もまぁ人の事言えないけど。人と仲良くなる天才のよっしーでも、サララの壁崩すの苦労してるでしょ?」
「うへー、まぁな。学園祭までには粉砕してやるけど!」

それでこそよっしー。
どんどん突っ込みを入れて来るよっしーとは対象的に、菅野ちゃんはこういう僕からの説明的な話題の時は話に加わって来ない。ただ、いつもよりゆっくりとご飯を食べながら真面目な顔で話を聞いている。

「だからね、あの泣き方もすぐ何事も無かったみたいに顔を作るのも、サララが苛められる前から出来ていたんじゃないかな。サララは何か過去の本当に辛かった事を…胸に秘めてると思うんだ」

最後は自信が無くて少し沈黙してしまった。秘めてるとは、どこか違う気がするんだよね…でもそれを考えるにはサララとの会話も接触も情報も時間もまだ足りない。

「推測だけど、あれだけ幸せそうに呟いてたはるかさんの夢の後に泣いたんだから、はるかさん関連だと思う」
「ん?でも幸せそうな夢の後魘されたんだから、幸せそうなはるかさんの夢と魘されたサララが泣いた夢は別の夢の確率は?」
「それはたぶん無いね。夢って後に見た方が記憶に残ってるでしょう?サララは起きてすぐはるかさんに幸せそうに笑ったんだから、後に見た魘されてた夢にも確かにはるかさんが居たんだよ」

サララがあそこまでになるんだから、はるかさんに裏切られたのか、はるかさんが不治の病にでもかかったのか、家庭やらの事情で引き離されたのか、最悪――

「ちなみにあの時間の質問はさっぱり。現段階で解くのは無理」
「ふむむ…あれもただの時間の質問じゃなかったと?」
「それにしては顔色が蒼白だったからね」

サララが起きたのがあの時間で良かった。サララにとって悲痛な想いをする時間じゃなくて。

「あのさ、あずみん」
「ん?何?」

いつの間にかご飯を食べ終わっていた菅野ちゃんが口を開く。あ、僕ご飯食べてない。よっしーもだけど。仕方ない、5時間目に食べよう。

「俺達は何をすればいい?菅野は馬鹿なので、何もしないなんて出来ないし、だが勝手に動いても失敗する気しかしないのだけど」
「うん、そうだね。指示を出そうか」

それが何より僕らしい。

「最終目標はサララに本物の笑顔を取り戻す事。細かい指示は、5時間目にでもメールで送るよ。もう予鈴10分前だしね」
「あずみんったら真面目」

違うよバカ。あんなクラスに僕達抜きでサララ迎えさせるなんて愚行させたくないだけ。
僕の予想が正しければこれから凄く面倒臭い。ああやだ。僕学園祭の準備とか忙しいんですけどー。

                


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