26

教室には、当然だけどまだ私以外の誰も居なかった。
窓から外を見下ろす。


「ちょ、ちょちょ待ったストップー!!サララ早まらないで生きてりゃいい事あるよっ!!俺も泣くし、あずみんも菅野ちゃんも号泣確定!赤也も!あと、」
「うん、よっしー落ち着いて」

教室のドアを開けるや否や二階中に響いていそうな大声で私に呼び掛けるよっしーに、私は呆れながら振り返った。

「二階から飛び降りるとかそんな微妙な事しないし、窓開いてさえいないし、そもそも自殺する気ないからね?」
「あ、マジだ」

この状況下で本気で自殺すると思ってたんだろうか。よっしーってある意味怖い。
よっしーが騒いだせいで先生来て大事になったりしなきゃいいな…。

「いやー、今朝なんっか胸騒ぎして早く起きて教室行ったらサララが虚ろな目で外見てたから早とちっちゃった!てへぺろ!」
「そんな虚ろな目してた?」

よっしーの一昔前のアイドルのようなポーズを流して聞けば、よっしーは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でると教卓に座った。

「てか、サララはそもそも気配が希薄。色で例えるなら透明or水色。今にも消えそうですよ」
「ふーん」

乱された髪を直しながら、俯きこっそりとにやける。透明か水色か。どうしよう、心配されてるだろうに私はそれ、嬉しい。

「綺麗な色だよね」
「…いや綺麗だけどさぁ。透き通ってて素敵だけどもさぁ」

さっきとは変わって呆れたように私を見るよっしーに笑いかける。

「私、色なら水色が一番好き」
「…清涼感あるし似合ってるけどね。俺は赤かなー」
「うん、よっしーっぽい。何とかレンジャーなら中心に居そう」
「さすが俺。主人公ポジか!」

よっしーと楽しく話していると、ふと思い出した。

「そういえばよっしー、昨日はよくも私のブレザーに入れてた手紙見てくれたね」
「へ?!え、マジでばれてた?!何で?!」
「知らなーい。女の子の手紙勝手に見ちゃダメじゃない」
「す、すまぬ」

あずみんの名前も菅野ちゃんも名前も出さずに教卓から降りおろおろとただ謝るよっしーに、仕方ないなぁと思う。言い訳すればいいのに、もう。

「今日の体育、女子何?」
「うーんとね、バドミントンだったかな。男子は?」
「テニス。なんだ、コート隣じゃん」
「よっしー達またきゃーきゃー言われるねぇ」
「人気者は辛いねぇ」

二人くすくすと笑い合う。
テニスか。よっしーは、オールラウンダーかサーブアンドボレーヤー、それかアグレシッブ・ベースライナーかな。強そうだなぁ。

「強いよ?」
「あれ、そんな顔してた?」
「してた。俺達三人共、一年の時テニス部勧誘されてたから」
「へー」

そうなんだ。いつか、戦ってみたいな。

「そういえばサララ、土日赤也に連絡取った?」
「え?取ってないけど、何かあったの?」
「っいや、何も?」

笑いながら言われても嘘としか思えないんだけど。

「誕生日とか?」
「いやいやいや、奴の誕生日はもうちょい後」
「ふーん」

私がそうなんだ、と声に出してすぐ何故かよっしーは噴き出し大笑いした。結局笑っている理由は教えてくれなかった。

                


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