11 私は教室に入ってすぐ、自分の机の状態に驚いた。 一瞬、私の机の上で殺人でも起きたのかと思った。これは心臓に悪い。 机に赤いペンキぶちまけるとか、新しいな。もしかして靴箱に使ったのが余ったんだろうか。 「…」 それにしても、これはちょっと困った。 落書き程度なら気にしないし、机が教室の隅のゴミ箱ポジションにあっても問題ない。花瓶があったって避ければ終わりだし、むしろただで花をもらえてちょっと嬉しい。いっそ机が無くなっていれば、嫌だけど先生か生徒会にでも言って新しい物をもらえる。 …机動かしたら、このペンキさらに床に溢れるよね。何もこんなドロドロの並々にしなくても。 確かに私にもダメージあったけど、床やら机同士の間の通路やらに溢れて、これクラスメートにもダメージ与えてるよ。 「皆おは、よぅおおお?!え、水代さん殺された?!」 このクラスの中心的存在である吉村君が、教室のドアを開けるや否や叫んだ。 いや、いるから。気持ちはわからなくもないけど。 吉村君は三秒程固まった後立ち直ったらしく、私の姿を見ると安心したように近寄ってきた。 …近寄って?え、何で来るの? 「やり過ぎやり過ぎ、これは引いたよ水代さん」 「…私に言われても困るんですが」 文句のためか。 誰が好き好んで自分の机を血の池地獄にするか。 「あ、おはよう」 「…おはようございます?」 忘れていた、とでも言わんばかりの顔で挨拶してきた吉村君に、私も一応挨拶を返す。クラスメートと挨拶したのは、たぶん半年ぶりぐらいだ。 「何で敬語?」 「え、何となく…?」 「じゃあノット敬語!」 「は、はぁ…わかった」 吉村君がわからない。 だいたい、何で私と話しているんだろう?別に吉村君、と言うかそもそも男子に嫌がらせを受けることは無かったけど、だからって別段仲良くない私を皆わざわざ庇うこともなかった。まぁ、普通はそういうものだろう。 なら何でまだ話し続けるんだろう?吉村君も私と幸村君の話でも聞きたいんだろうか? 「そう!それでね、俺水代さんに聞きたいことってか確かめたいことがあるのですよっ!」 「…」 ああ、やっぱり。 聞かれても、どうせ答えないよ。 「水代さん、赤也と付き合い出したって本当?!」 吉村君の声が教室内に響いた。まだ十人程度しか来ていない、私と吉村君の会話に聞き耳を立てていただろうクラスメート達が一斉に此方を向く。 …もう少し静かに聞いて欲しかった。 いや、それよりも、 「何で知ってるの?」 それは本当に、ついさっきの話で…人は居なかったと思ってたんだけど、実は話聞いてる人が居たとか? 「赤也にメールで聞いた」 「ああ」 行動早いな、切原君。まさしく新しい玩具を手に入れて自慢する子供だ。 「ってことはやっぱり本当…なの?」 「一応、そうだね」 「えぇええ…!」 オーバーリアクションでうちひしがれる吉村君に、どっちの事もよく知らないくせに切原君と似ているなとぼんやりと思った。 まぁ、そんな事より吉村君の落ち込み方から彼が私に話し掛けて来た理由がわかった。 「吉村君さ、」 「おう?」 「付き合えない方に賭けてたでしょ」 「っげほ!ごほごほっ!!な、何でわかった?!」 咳き込んでから、何処か気まずそうにしながらも好奇心には勝てないようで吉村君が詰め寄ってきた。 うん、やっぱり付き合えるか賭けてたか。 切原君の送ったっていうメール、いやに急ぐなとは思ったんだよね。早く賭け金(賭けたのがお金かは知らないけど)が欲しくて興奮して報告したなら納得だし。 「簡単な推理。話が終わったならバイバイ」 微笑みながらあしらうように手を振れば、吉村君も笑い返してくれた。 |