男主短編 | ナノ




男同士の恋愛とは、この現代日本において非常に困難だ。
それに加えて、その相手が実の弟であった日には…はは、まったくもって笑えない。
跡部グループの長男として、何もかも努力して天才と言われた。なのに根本がこんな出来損ないなんて、本当…笑えないよね。

俺はね、諦めようとしたんだよ?だってどう転んだってハッピーエンドにはなり得ないでしょうが。愛する人、そして大事な弟の幸せ願って一歩引いていつも笑っていた。
絶対に気づかせないように、細心の注意を払った。

「兄さんは、俺が嫌いでしょう。…知っています。それでも、でも俺は、兄さんが…っすき、です。気持ち悪いと、笑ってください」

結果、必死に避けてきた愛する人にここまで言われて、それでも幸せを願い身を引ける程、俺は出来た人間にはなれなかったよ。
一人の男に、過ぎなかった。

「景吾」
「っん…は、何、ですか…?」

もう何十回目の生産性のない性行為の最中、自分のベッドに組み敷いた景吾の艶かな喘ぎ声を聞きながら笑う。
俺はこの行為に未だ慣れることなく、綺麗なものを汚すような、どうしようもない背徳感に襲われる。なんて、兄弟でこんなコトしてる時点で、背徳もいいとこなんだけどね。

「ねぇ、知ってるか?」
「なに、ぁを」

俺が指一つ動かす度に跳ねる、全部俺が開発した感度の良い身体に目を細める。
言いたくない。

でも、言わなかったらもっと絶望する。
ああ難しいな。好きな人が弟って、難しい。
最初から知ってたくせにな。

「母上、たぶん何となく勘づいてるよ」
「っそ、ぁあ!ちょ、や、に、さん!」
「まぁ、隠し通すなんて端からできるわけないんだよ」

自分から言ったくせに景吾の反応を聞きたくなくて、指の動きを早め思考を阻ませる。
ガクガクと震える景吾が愛しくて、目を細めもう片方の手で景吾の汗ばんだ指通りのいい髪をかき上げる。

「前から気づいてた。でも駄目だなぁ…止められない」
「お、れも…っ」
「…そうか」

両想いがこれ程辛いとは思わなかった。いっそ、一生片想いが良かったよ。
景吾と繋がり目を閉じて腰を動かす間、両親友人部下親戚同輩、今まで関わってきたたくさんの人が頭に浮かんでは消えた。
でも目を開ければ、もう景吾しか目に入らなくて。ああ、俺にこんなに好かれたお前は最高に不幸だよ、景吾。

景吾が果てて、俺も果てて、照れ臭そうに後処理をしようとする景吾を風呂場に押し込め、独特の臭いを放つそれがついたものをごみ箱に捨てた。
…いつもなら、さすがに全部は捨てないよ?洗ったりもしてる。


母上に俺達が引き離される日も近いだろう。
だから、今日俺はけじめをつけようと思うんだ。成功確率、おそらく10%未満。
それでも、やらなかったら後悔するから。

「兄さん」
「ああ、景吾。あがったのか」
「はい。…それで、母上の話をもっと詳しく、」
「聞く必要ないよ」

急いで戻って来たのだろう、景吾の髪からはまだ水滴が時折床に落ちていた。
きっぱりと拒否した俺に口ごもった景吾の腕を引き、俺の腕の中に倒れてきた景吾を片手で抱き締めながら、タオルでその頭の水滴を拭う。

「景吾、いい彼女見つけなよ」
「嫌です」
「…景吾」
「嫌です。我が侭と思われても、兄さんと…名前と離れるなんて、考えられない」

ああもう、その確率予想は俺の自惚れだって冷たく切り捨ててくれれば良かったのに。やっぱり駄目だった。
俺も馬鹿だけど、お前も大概だよ景吾。俺なんて…好きになるなよな。

「じゃあいっそ、一緒に死ぬ?」

母上に全力出されたら、本当にもう二度と会えない。どう頑張っても会えない。

なら、その前に――







「…名前」

一度しか、俺は本人の前で名前を呼べたことはなかった。
真っ白な部屋を見ていると、死後の世界のような錯覚に囚われる。…っは、違ぇな。願望、か。

「名前、名前、名前」

何度名前を呼んでも、応える声は聞こえない。外で降る雨が、俺の記憶から名前の声をかき消していく。
自殺未遂を繰り返し、果てには母上さえ手にかけようとした俺の身体は、フィクションの世界でしか見たことのないような変な器具で自由を奪われ、ベッドにくくりつけられている。

「名前」

声しか出せないから、名前を呼ぶ。
だって俺は見てないから。


兄さんが死ぬところ、見てないから。

だから、俺だけ助かったなんて、そんなの、母上が俺達を引き離すための嘘なんだろ?
なぁ、同情でも何でもいいから、もう一度名前と会わせてくれよ。また一緒に生きたいなんて、言わないから。

「一緒に、」


死なせて。

今日も兄さんは、俺の病室に来てくれなかった。



50000打リク:景吾兄近親相姦夢。心中後景吾だけ助かる(マカロン蝶羅様へ贈呈)


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -