男主短編 | ナノ




「な、何で名前先輩が此処に?!」
「落ち着け神崎、俺の部屋に俺がいるのは当然だ。むしろお前がおかしい」

すぱん、とノックも呼び掛けもなしに部屋の襖を開けられたと思ったら叫ばれた。俺は悪くない。被害者だ。
そして同室の綾部が帰ってきたらアイツ面白半分に変な噂立てそうだから、とりあえず落ち着いて。

「まぁ、まずは神崎座れ」
「はい!」
「相変わらず返事だけは素晴らしいな」

瞬時に部屋に上がって正座した神崎に、俺はため息を吐いた。俺は知っている。先輩達や同級生がいくら神崎に付いて来いと言っても見事なまでに迷子になり、誰か(主に富松)が捜すはめになっていることを。

「状況を確認する。お前が今いる場所は俺と綾部の部屋だ」
「初めてのお泊まり…毎日寝床を共にしているなんて綾部先輩羨ましいです」
「すまん、俺はどうすればいい」
「いつでもどうぞ」
「何を?!」
「嫌だ、言わせないでください…」
「頬を赤らめるな…!」

突っ込みどころが多すぎて、俺はもうすでにこの状況から離脱したい。富松助けてー。
冗談なのか本気なのかわからない神崎とのいつものやり取りに、俺は心身共に疲れ果てている。

「だから…あー、まずお前は何処に行こうとして此処に来た」
「食堂に真っ直ぐ向かってました。途中に名前先輩の部屋があったんですね!」
「ねぇよ。四年長屋は別に食堂から近くねぇから。お前はただの迷子だ」
「いえ、名前先輩への愛が僕を此処に導いたんです!進退疑う無かれ!」

ただの迷子だよ!毎回毎回迷子になる度に最終的に俺の所に来る超常現象は凄いが、迷子には変わんねぇよ!
と言っても無駄なのは今更過ぎるので、俺はため息で留めた。心配そうにどうしたんですか?とか聞いてくる神崎に、思わず首を絞めたくなったが理性を総動員してやめた。
誤解して欲しくないんだが、確かに俺は神崎にたまに…たまーに若干の殺意を覚えることはあるが、別に本気で死んでほしいわけじゃない。でもさ、ちょっと脅したり怒りをぶつけたり泣かせたりするぐらいは許されない?やらないけど妄想ぐらいは許されない?

「…富松が半泣きになってる電波を受信したから行くぞ」
「お泊まり…」
「いつも通り手繋いでやるから早く来い」
「はい!」

はいはい、素敵なお返事デスネー。
やっぱりこういう時と全力で迷走する時だけ素早い神崎に手を繋がれながら、俺は富松捜しの旅に出た。

「それにしても作兵衛狡いです」
「どの口がそんなことを言う。富松に会ったら土下座しろ」
「だって名前先輩と電波を通わせてるなんて…名前先輩!僕とも通わせてくださいっ!」
「無茶言うな、それは冗談だ」
「じゃあ僕と身体を通わせてくださいっ!」
「貴様は結局それが言いたかっただけかぁあああ!」

神崎、疲れる。怒鳴るのと神崎の言動の理解不能さが酷くて凄く疲れる。
俺にも富松(保護者)を一瞬で捕まえる能力をくれないか神様。



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