男主短編 | ナノ




早朝誰も居ない教室でお勉強をするのはいつもの事で、下手して新入生代表さらには最初のテストでも学年首席なんて取っちゃったもんだから、親がもう期待する期待する。某首都名大学に進学させる気満々な父上様と頑張ってねと天然丸出しな笑顔で仰る母上様。俺はまだ中学生なのだけど。
別にお勉強嫌いじゃありませんけどね。しかし中学入ってから急激に目が悪くなり眼鏡男子になってしまった。眼鏡も嫌いじゃないけど、眼鏡無しだと一メートル離れてる人の顔も認識できないのが辛い今日この頃。

「え、」

いきなりガラリと教室のドアが開いたと思えば、癖っ毛の少年が俺を見て目を見開き声を漏らした。
予想外、とでも言いたげなその独白に、まぁ当然かと思う。時刻は午前6時。普通に考えて教室に生徒なんてまだ居る訳が無い。俺は見慣れた字で文字式を書き連ねられているノートを閉じ、眼鏡越しに淡く笑みながら少年を見た。

「誰かにラブレターでも渡しに来た?」

どう考えてもうちのクラス、むしろ同じ学年でも恐らくない少年がわざわざ早朝からやって来たのと、その手に握られた一枚の折り畳まれた紙から推測して聞けば、少年は途端に顔を真っ赤にした。
え、何その漫画みたいな反応。わかりやすっ!

「い、いや、いやその、べ、べ別に…!!」
「凄い。俺、こんなにわかりやすく吃ってる奴現実で初めて見た」

俺はある種の感動を胸に手をわたわたと忙しなく振り動かし必死に否定という名の肯定を繰り返す少年の顔をじっと見る。冷静な俺に少しは頭が冷えたのか、少年は真っ赤な顔をそのままに拗ねたような表情で俺の方に歩いて来た。

「っ先輩は、…何でこんな時間にいるんスか?」
「あ、やっぱり後輩か。俺はこの机の通り勉強してるんだよ」
「へー、凄ぇ…でも何でわざわざ学校でするんスか?」
「色々あるんだよ。家庭事情みたいな?」

家庭というか、愛犬が邪魔して来るというだけの話だが。チャッピーをつい構ってしまう俺が悪いのだが。
もう十分勉強してるし、そんなに頑張らなくても今年も首席のまま卒業は堅いんだけどね。なんか朝勉強するの癖になっててついしちゃうというか。

「で、ラブレターはいいの?」
「な、い、いいんですっ!」

さっ、とラブレター持ってる手を自分の体の後ろに隠して怒る少年。なんとも応援したくなる子だ。

「香坂さん?」
「は?誰ッスかそれ」
「あー、じゃあ屋島とか?」
「いや、だから何の話…」

あれー、うちのクラスのツートップ美女の名前挙げたんだが違うのか。この少年が好きな人の名前出されて反応しないわけもないだろうし。

「俺、これでも顔広いからさ、少年の恋の手助けしてやらないでもないよ?なんか面白そうだし?」
「は?!…お、面白がられても…ってか、先輩にしてもらっても、…」
「おいおい、俺結構役に立つと思うぜ?勉強馬鹿に見えたかも知れんが、我ながらそこそこ男女問わず人気はあるんだ。クラスのほぼ全員と友達だし」
「……」

知ってますよ、ぽつりと聞こえた声はきっとこの静まり返った校内だから辛うじて聞こえたぐらいの声量で。俺は二度瞬きをした。

「俺の事知ってんの?」
「え?!ぅあ、聞こえっ……は、い。知ってま、す」
「俺の名前は?」
「苗字名前、先輩」
「おおっ」

どこか気まずそうに少年は目を泳がせながら正解を口にした。
俺ってそんなに有名だったのか?学年内じゃともかく、後輩に知り合いなんて全然居ないのになぁ。

「俺の名前、切原赤也」
「へぇ、赤也って珍しい名前だな。へぇ、切原ね。……切原?」

なんだろ、何処かでいつか聞いた…いや見た?ような…切原。後輩。えー、っと…ああ、この癖っ毛。そう、確か……テニスコートの近くの、手洗い場…?
俯き座り込んでいた汗だくの癖っ毛の後輩。ジャージに刺繍された切原の名字。俺は体育で使わなかったタオルをその頭に被せて、驚いたような顔が俺を見上げ、その濡れてる瞳を見て俺は思わず笑顔で何も知らなかったけど……。

「あー…っと、頑張ってる…?」

そう、頑張れ切原と。そう言って立ち去った。うーん、我ながらなんて意味不明な先輩。そりゃ記憶に残るわ。何処かで俺の姿見て名前呼ばれてんの聞いたんだろ。
俺の歯切れの悪い苦笑いでの問いに、切原は急に身を乗り出し俺の机に両手を乗せ顔を近づけてきた。え、ちょ、何?近い近い!

「はい!名前先輩があの時頑張れって言ってくれたから、俺止まっちゃいそうになってたけど進めて!レギュラーなれました!二年でレギュラーなの俺だけなんスよ…!」
「お、おう、偉い偉い」

突然の切原のテンション上昇に戸惑い、半ば流されてその頭を撫でてみた。その扱いは褒めて褒めてと擦り寄ってくる我が愛犬チャッピーと同じだったのだが、そんな事知る由もない切原少年は嬉しそうにへへ、と照れ笑いをする。

「だ、だから名前先輩、その、俺と友達になってください…っ!!」

ええー?!
離れたと思ったら、九十度背中から頭を下げ目の前に差し出された手はまるで、今時ない固く真剣な交際の申し込みでもしているかのようだ。だからって、何がどうだからなのか。お前はうちのクラスの誰かにラブレターを渡しに来たのでは無かったのか。何故俺に友達交渉をしているのか。さっきお前が手ついたとこの教科書ちょっと変に折れてんだけど。

「…まぁいっか。よろしく」
「!はい、よろしくお願いします!!」

流された俺が差し出された手を取ると、切原は赤い顔で両手で俺の手を強く握り軽く振った。俺、君にそんなに憧れられる程の事してないと思う。凄く過大評価されてる気がする。それは父親からの期待とどこか重なって。でも何故かちょっと嬉しいような。

「じゃ、じゃあ今日はこれで!…あ、先輩明日もこの時間居ますか?!」
「ん?うん、だいたい平日は毎日」
「ならまた明日!」
「おー、またな切原」

ぶんぶんと中々の速さで手を振る切原に、俺も手を上げその背中を見送った。切原が去った教室は一気に静寂を取り戻し…廊下を走る足音はまだするが、うん、奴は台風のようだった。
ふと、足下に落ちている紙に気づく。

「…あっ」

両手で俺の手握ってた時点で、そりゃ落としてるわな。ポケットとかに入れてたわけでもなかったし。
むくむく疼き出した好奇心と悪戯心で、俺は席から立ち上がりそのラブレターを拾い開いてみることにした。なぁに、あの懐きようならそこまで怒られる事もあるまい。明日教室に来た切原に、会口一番宛名の子の話をしてや……………。


「あー……うん、成る程」

憧れって、そっちでしたか。俺そっちはあまり考えた事無かったってか…そりゃ好きな奴の名前言えねぇわな。差出人名無いのは、単純に書き忘れたのか男だからか返事を聞く気が無かったからかただ名前も教えず知って欲しかっただけなのか。

「無かった事にしていいもんなのか、ねぇ」

別に告白もラブレターも初めてじゃないけど、俺、こんなに情熱的なラブレターもらったのは初めてですよ切原赤也君。
眼鏡を外し、ぼやけた視界の中で俺は僅かに熱を帯びた頬を冷ますように両手で顔を覆った。


ーーー
翌日ラブレターを切原に返した名前君は、見てないという言葉をまったく疑わない切原に、疑えよ!ちょっとは疑えよ!ともやもやし、切原のラブビーム(視線や態度)に、隠せよ!ちょっとは隠せよ!ともやもやし、最終的にあまりの焦ったさに名前君からちゅーして「さっさと好きって言えよ、バーカ」とずれた眼鏡を直します。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -