男主短編 | ナノ




※夢主が雑種のかわいい小鳥さん
※グロい




この俺にとって、人を二種類に分けるのなら使える人間かクズかだった。
俺はもう完璧人間の代表であり、何をやらせても天才の超人。金も名誉も持っていて、人を顎で使って贅沢三昧していた。
そんな俺の生涯は20歳になったその日に幕を閉じた。俺の誕生祝いの祝典での暗殺だった。



「名前、名前ー?」

黙れ小僧。

俺は未だに、第二の生涯を受け入れてはいなかった。この阿呆そうな餓鬼が俺の主人?この羽だらけの身体が俺のもの?この狭苦しい牢獄のような木の籠が俺の家?

「ピー…」

そしてこの甲高い鳴き声が俺の声だとでも?!
ふざけるな!何故この俺様が雑種の薄汚い小鳥なんぞに、ああ世界の全てが恨めしい。

「母上、名前返事しました!」
「ッピー!(うぜぇ!)」
「ほら、ほらまた!」
「あらあら良かったわね」

返事じゃねぇんだよ、うぜぇっつってんだよ。テンション上げてんじゃねぇぞ、あ゛?
俺がそんな呪いの込もった睨みを純日本人の癖に赤髪の餓鬼に向けると、餓鬼はお腹減ったの?と何故か飯入れに飯を足してきた。違ぇよ、馬鹿。
ただ、こうも悪意なく無邪気に接せられると、まるで俺の方が悪人みてぇだな。

「名前ー、俺作兵衛な。作兵衛って言ってみ?さ、く、べ、え!」
「作兵衛、名前はオウムじゃないから作兵衛とお話は出来ないのよ?」

マジで馬鹿だろお前。何?作兵衛?古風な名前だなおい。いや、待てよ…家から見ても作兵衛の格好から見ても何此処江戸時代とか?

「名前、言えるだろ?さーくーべー!」

顔近づけなくても聞こえてないんじゃねぇから。無理だから。喋れねぇから。

「作兵衛っ!」
「…ピー(作兵衛)」
「ほら母上!」
「ふふふ、そうね、名前はちゃんと作兵衛の事呼べたわね」

何だこの平和家庭。



それから何だかんだ二年。雑種鳥な身体にも生活にも慣れてきちまった俺は、怠惰に作兵衛のペットとして生きている。
二年経ったのに、未だ作兵衛毎日俺に構ってくるからな。どんだけ俺の事好きなんだよ。そこまで好かれちゃ、俺も悪い気はしねぇよ。
俺なんか昔シェパードのフランソワ飼ってたけど、買ってから半日で飽きたからな。

「名前!あのな、俺忍術学園に行くんだ!」

意気揚々と今日も作兵衛が俺に話し掛けてきた。
はいはいおままごとおままごと。ニンジュツ学園?ニンジュツって忍術?馬鹿かお前、忍者なんて都市伝説なんだよ。

「でも、名前は普通の小鳥だから忍鳥はなれねぇんだって母上が…」

ニンチョウって何だよ、ニンチョウって。

「名前、手裏剣とか避けられんだろ?!こう、シュパって!いけるよな?!」

いや無理。
一人で勝手におままごとでヒートしてる作兵衛を冷めた目で見る。

「名前が避けられんの見せたら、母上一緒に行かせてくれる!ちょっと名前籠出ろ!」
「ピ?」

作兵衛が意気揚々と俺の家である木の籠のドアを開ける。
え、意味わかんねぇけど俺籠出ていいの?

出るけど。

「ピッピー!ビピー!(ひゃっほー!久々の外だ!」
「やる気だな!よし、ちょっと待ってろな!」
「ピィッピー!(意味わかんねぇけどテンションは高い!)」

俺が部屋内を無駄に飛んでいると、作兵衛が部屋の隅に置いてある風呂敷を開けていた。
あれ、それっておばさんに学園で学ぶまでは勝手に開けちゃいけないって念押されてたやつじゃなかったか?お前怒られんぞ?
ただ、俺も作兵衛が何を買ってもらったのか気になったので近寄ってみた。

風呂敷の中のさらに一つの包みから出てきたそれは手裏剣だった。確かに手裏剣だった。研ぎ澄まされた刃が光るどこからどう見てもモノホンの。

「じゃあ投げるぞっ!ちゃんと避けんだぞ!」

え、何でこの子モノホンの手裏剣持ちながら俺の方見て構えてん…の?

「ピィ?!」


っぶね!あっぶねぇえええ!羽、羽ちょっと掠った!てめ、作兵衛ゴルゥアァアアア手裏剣俺に投げるとか何してくれとんじゃワレェエエエッ!!

「惜しい!次はいけるよなっ!」

いや無理。無理無理無理。
何で作兵衛さ、俺がそれ普通に避けられるって方向で話進めてんの?俺が作兵衛に返事の出来る賢い鳥さんだから?勉強出来んのと運動出来んのは違ぇって理解出来ねぇの?
あ、これもう俺キレてる場合じゃねぇわ、殺されかねねぇもん。

「あ…っ!!」
「ピ、ピピー!チチッ!(作兵衛、達者でな!あばよッ!)」

俺は作兵衛の悲の感情の詰まった声に振り返りニヒルに笑うと、少し開いていた襖の隙間から真夏の空へと飛び立った。

作兵衛の事は嫌いじゃないが、そもそもこの俺様はあんな木籠にくすぶっているような存在じゃないってこったな。
あー、にしても飛ぶの疲れた。長時間飛んだ事ってねぇからなぁ。暑いし。水飲みてぇ、水…水、溜り。
もしや野生ってこの水飲んで生きてかなきゃいけねぇのか…?蛇口なんて便利なもん、時代的に無さそうだし、え、マジで?

「ピ…」

とりあえず、水溜りの前に降りたってみた。
…やる、しかねぇのか。あー帰りてぇ。でも帰ったら作兵衛にまた殺されかねねぇし、しばらくしたら作兵衛落ち着かねぇかなー。

俺は意を決して水溜りにくちばしを当てた。
そして、水溜りに映り込むそれに息を止める。

振り返った。

犬だ。

目が合う。

え…何で口、開けてんの、かな…?


あ。

ああ。


ぐちゃぎちっしゃぶちぎちゅびっ。



所変わって、此処は富松家。
家中、いや家の外まで子供らしい泣き声が響いていた。

「ははう゛え゛ぇ名前が、名前ーっ!」
「鳥さんはね、大空に憧れるものなのよ。でも作兵衛は寂しいのよね?」
「はぃい゛」
「じゃあ、もう母上の言いつけを破っては駄目よ?」
「っはい、母上、名前は元気でやってるでしょうか…?」

作兵衛の母親は生まれてからずっとペットとしてしか生きてきていなかった小鳥を思い、曖昧な笑顔を浮かべて口を開く。

「ええ、きっと」

それは優しい嘘だった。
誰に知られる事も無く、ただの母親としての優しさである嘘だった。バレない嘘は、真実と同じである。

「作兵衛、アンタがずっと落ち込んでたら名前も悲しむわよ?ほら、子供は外で遊んで来なさい!」
「…はい」

バレなければ、真実だった。

名前の一生を潰えた場所が今から作兵衛の行く空き地で無ければ、真実だった。


それから、作兵衛は三つの事を学習した。

ひとつ、母上の言いつけは必ず守る。
ふたつ、大切なものには刃を向けない。
みっつ、どんな絶望にも耐えられるよう、心に予防線を張る。楽観など、死んでもしない。あらゆる最低を、最悪を想定し恐れて悲しんで、そうしたら――

どんな凄惨な現実にもそれよりはマシだったと安堵出来るから。


200000打お礼フリリク、塩さんへ


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