男主短編 | ナノ




六年い組、苗字名前。自他共に認めるただの子供嫌いである。
食満(子供好き)とはその件で何度か拳で語ったことがある。お前が子供好きであるのは構わんしどうでもいいが、俺に押し付けんな。大層うざい。お前目付き悪いって怖がられてんだろうが。

「名前も下級生に怖がられてるよね」

友人の伊作に食事中に言われたことに、俺は箸を置いた。

「怖がられて近づかれないようにしているのだ。完璧な予防策だろう」
「具体的には?」
「下級生が近づいてきたら、くわっと顔をしかめて威嚇する」
「名前ってそういうとこかわいいなって思うよ」

何故だ。

視線で問えば、さらに伊作は名前って警戒心強い野生の動物みたいだよね、と微笑ましい顔で言われた。何だ、よくわからんがムカつくぞこいつ。
伊作も子供好きの部類だし、いかにも優しげな顔に不運という親しみやすさが加わり、下級生に大層好かれている。よく俺と友人なことを不思議がられるものだ。その実、何の問題もなく仲が良いが。

「だが…そんな俺にも近頃悩みがある」
「へぇ、名前が悩みを人に話すなんて珍しい」
「基本的に自分で解決すべきものだからな。だが今回は…伊作、お前にも多少なりとも関係がある」
「え、僕に?」

きょとんと俺を見た伊作に、神妙な顔をして頷いた。
それと共に、とててと何ともかわいらしい此方に近づいてくる足音が聞こえた。俺は顔をしかめる。

「名前せんぱぁい!」

名前は知らんが誰かはわかる!だいたい、伊作がいるからといって俺が隣にいる時に近づいてくる下級生なんて、コイツぐらいのもんなのだ。

…くわっ!

「きゃあ!すっごいスリルぅ…!」

俺の渾身のくわっが、しかもコイツには効かない。何たることだ。何を喜んでいるのかまるでわからない。

「伊作、お前んとこの後輩だろう」
「うん。伏木蔵どうしたの?」
「えへへ、名前せんぱいが見えたもので。善法寺せんぱい、こんにちはぁ」
「こんにちは」

仲睦まじい先輩と後輩のやり取りの横で、明らかに苛々とした空気を出した俺に、周りの奴等が何事だと俺達を見ている。
で、どういうこと?と矢羽根が飛ばされ、俺はため息を吐いた。知らん、うざい、どうにかしてくれ。と矢羽根を返せば、伊作はムッとした顔で俺を見た。
仕方ないだろう、俺は子供が全般的に嫌いなんだ。

「伏木蔵は名前のこと好きなの?」
「はい、初恋ですぅ…」

え。

ちょっ名前?!そういう意味で好かれてたの?!
いやいや、俺も初耳だし、伊作睨むな馬鹿。
睨むよっ!幼気な一年生を弄んで…っ!
マジで落ち着け馬鹿!俺子供嫌い!

矢羽根で軽く喧嘩した俺と伊作は、顔を見合わせ同時にため息を吐いた。阿呆らしっ。

「名前せんぱい」
「何」

もうちょっと優しく返事してよ!と矢羽根を飛ばす伊作は無視して、いかにも嫌ですという顔で一年を見る。伊作が伏木蔵だとか呼んでたっけ。

「せんぱいはこどもが嫌いなんですよねぇ…?」
「おう。大っ嫌いだな」

伊作が優しく優しくと煩いが、俺が子供大っ嫌いなのは事実でどうしようもないことだ。

「じゃあ僕は男として見てください」
「は?いや子供だろ」
「こどもじゃありませんっ!」

俺は座って伏木蔵は立ってるのでただいま目線が同じぐらい。この素晴らしい身長差を前に、よくそんなことが言えるな。

「ほら、こどもじゃない」

そんなことを言って俺に接吻してきやがった伏木蔵に、伊作が絶叫したのは言うまでもない。

(なにこのドキドキ。超笑えないんですけど)


「ぎゃあぁあああ!何で名前そこで吐くの?!そういう場面じゃないし、食堂なんだけどっ!」
「っるせ!はぁ…はぁ…不整脈、マジ無理」
「え、僕にドキドキしたんですかぁ…!」
「いやこのドキドキはちが、うぉえっ!マジお願いだから近づくな!触んな!やめ、うぇおおぇ」

俺が何で子供を嫌いって、小さい頃のトラウマが理由で、しかもそのせいで自分より年下の奴に触られると激しい動悸と吐き気に襲われるのである。


お題:家出様より


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