男主短編 | ナノ




…ん?

「名前先輩」

何で俺、綾部に上に乗られた状態で起きたんだろう。むしろ何で寝ている俺の上に綾部が乗っていたんだろう。

忍術学園五年い組、苗字名前。学園一の強さと詠われながら、寝ている時なら一般人がやったとしても軽く殺せると有名です。
会計委員で潮江先輩にはそれについて散々怒られたが、何分意識がない上寝ながら警戒なんて高度な技は出来ないため、どうしようもありません。
これでも敵意や殺気を感じたら起きるから、流石に一般人でも〜ってのはデマなんだけどなぁ。

「綾部、どうした?」
「…」

綾部はその無表情かつ整った顔立ちで、何も言わず俺を見るだけだった。
綾部、綾部ねぇ…むむ、今までまるで関わりなかったよなぁ。暗殺される程恨まれた覚えはないんだが。

「あーん」
「へ?」
「名前先輩、あーん」
「…あーん?」

とりあえず言われる通りに口を開ければ、綾部に一瞬にして手を突っ込まれた。

「へやっ?!」

反射的に噛もうとしたのを何とか抑え、俺は戸惑いながら綾部を見る。
綾部は俺を凝視しながら、人の口内で指を遠慮なく動かし触ってくる。

「おま…っ!らんやよ!うぉえ…吐く…」
「どうぞ」
「うぉい…っ!」

何この後輩、怖い!人の寝込み襲って吐かそうとしてくる!地味に凄ぇ効果ある嫌がらせ…!
しかも俺、仰向けの状態で綾部に乗られてるから今吐いたら逆流して気持ち悪いことになるし。

「…」
「あ、気済んだ?何怒ってんだよ。口で言ってくれ、頼むから」
「別に怒ってませんけど」

やっと口から手を抜いてくれた綾部に苦笑いで聞けば、綾部は当たり前のことだとでも言うようにそう言い…そう、言い…?

え、何この子。何やってんの?

「うわああぁぁぁあああ!ちょ、汚いからやめなさいっ!」
「だって垂れてくるんですもん」
「何常識っぽく言ってんの?!非常識!その行動、非常識だから!」

さっきまで俺の口内に突っ込んでいて、当然俺の唾液まみれの自分の手を舐めだした綾部に、俺は流石に慌てて無理矢理起き上がった。上に乗っていた綾部が反動で地面に転がったが、とにかく俺は綾部の手を掴み、これ以上綾部が自分の手を舐めるのを防止する。

「おやまあ、逆転ですか。…わかりました。名前先輩になら、受けでも甘んじましょう」
「は?受け?……どうしよう。わかったような、わかりたくなかったような、わからないふりをしたいような…」
「優しくしてね(はぁと)」

ちなみに綾部はかっこもはぁとも口で言っている。
でも綾部、顔はまさに美少女だからこの状況も態勢も洒落にならないぞ。此処で襖が開けられたら、俺が綾部を襲ったことにされそうだ。…まさか、それも嫌がらせの一部だったり?

「潮江先輩、俺が悪かったです。今後は寝起きの訓練もしますから助けてください」
「え、潮江先輩と寝たんですか?」

綾部が驚いたように言った。俺はお前のその発言に驚いたよ。
深読みしたくないんだが、しなくていいだろうか?潮江先輩とは会計委員の委員会中に俺が一人で寝たことならある。その意味なら、田村やら神崎やら団蔵やら左吉やらとなら一緒に寝たなぁ。

「潮江先輩と寝れて、僕とは寝れないんですか…?」
「誤解を招く発言はやめて」

お前、そういう話に潮江先輩巻き込んだのバレたら怖いぞ?!ただでさえ潮江先輩は三禁三禁うるさ…三禁を素晴らしく重んじてるだからな!

「潮江先輩より気持ちよくさせてみせます」
「…いや、既に気持ち悪くされたから。吐かされかけたから」

それから無理矢理寝間着を脱がされかけた俺は綾部を吹っ飛ばして逃げ出した。

この頃の俺は、これから毎朝綾部と似たような行程を繰り広げさせられることになるとは思ってもみなかったのであった。


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