雑渡さんが、最近忍術学園にお気に入りの子ができたらしい。
雑渡さんに付きまとわれ構われ倒され潰されていたタソガレドキ忍軍の一忍である俺としては、万々歳である。…公私混同はよくないと思うが。
ああ久しぶりに町に遊びに行こうかな。それとも、尊奈門の馬鹿でもからかってやろうか。アイツ、チョークやら出席簿に負けたらしいじゃん、ぷぷ。
「名前ちゃ、」
「あ、組頭。どうかなさいましたか?俺今日休みですけど」
何か言いたそうに声を掛けてきた雑渡さんに、働かねぇぞという空気を存分に発揮しつつ微笑む。
ああ、いっそ俺も忍術学園忍び込んでみよっかなぁ?俺も初々しいお気に入り作ってみたり。たーのーしーそーうー!
「じゃ、失礼しまぁす!」
「…」
雑渡さんと別れてるんるん屋敷内を闊歩する俺の目に、尊奈門が映った。
はっ…!これは俺に尊奈門をからかえという神のおぼしめし!
「そーんーちゃんっ!」
「い?!苗字さん…!」
「お前、出席簿の角でとどめ刺されたんだって?ぷぷー。学校のセンセ嘗めたらあかんぜー?」
我ながら嫌な先輩よろしく尊奈門に絡むと、尊奈門は引きつった苦笑をした。
俺がベタベタ人に触るのはいつものことなので、その辺は尊奈門も安定の気にしなさだ。
と、急に尊奈門が俺から離れた。
「お?」
「いや、おじゃないですよ!何で組頭連れてるんですか…!ああもうびっくりした!」
「知らんよ、組頭が勝手に付いてくる」
確かにさっきから一定の距離を取りながら雑渡さんが付いてくるわけだが、それに尊奈門が触れるとは思わなかった。そこは気にするのか。
「苗字さん、もしかして組頭のこと怒ってます…?」
「うん?」
「苗字さんはてっきり組頭のこと嫌がってるのかと思っていたんですが…」
いや、だって急にぴたりと無くなったら寂しいじゃん。
という本音は知らんぷりして、俺は振り返って微笑んだ。
「名前ちゃん…!」
「組頭!俺、尊ちゃんと町行ってきますね!」
俺を巻き込まないでくださいよ…!と切実っぽい叫びを上げる尊奈門の手を引き、俺は歩きだした。
べーだ!まだしばらく許してやらんもん!