用具委員の下級生に手を出すべからず。
そもそもショタコンではないので手を出すつもりもないのだが、それは"俺達"の間で絶対の掟であった。手を出したが最後、六年用具委員長に殺される。ボコボコにしてやったぜ!とか表では何か大したことない感じに言いながら裏で内密に処理される。
それが俺達モブというものである。
俺、苗字名前。忍術学園に入学してまもなく、この世には二種類の人間、つまりレギュラー様とモブがいることを知り、大してレギュラー様には関わらずモブ街道まっしぐらに生きてきました。友達は皆モブです。
「あ、あのぅ、苗字せんぱい…」
「はい、な、何でしょう?」
「お返事は…?」
さぁぁあて、どうしたものか。冒頭の通り、俺達モブは用具委員の一年生レギュラーなんかに手を出した日には死亡フラグ吹っ飛ばして死亡。
下坂部平太君に告白なんてされた日には、俺死んだ。ちょ、モブ友ー…!俺等の周囲に食満先輩はいないかぁあああ?!(まだいないよぉおお!でも早く離れてぇええ!)うけたまわったぁあああ!
「あのな、下坂部君。気持ちは非常に、非っっっっ常ぉおおに嬉しいんだが、そもそも俺と君とは大して関わりもなくだな」
「あれはとても暑い夏の話でした…」
「えぇぇぇぇええ?!何かこの子語り出しちゃったんですけどぉおおお!」
モブ友ー!助けてぇええ!(名前…頑張って!)ちょ、おま何処に行いやぁあああ!見捨てないで!モブ友見捨てないでえぇええ!!
ぼくはあの日、ふと学園の近くにある湖の辺りを歩いていました。そんなとき、ふと湖にまつわるこわい話を思い出してしまったのです。
ちょうどそのとき、湖の中で何かが跳ねたものですから、ぼくはその場にへたりこみ動けなくなってしまいました。しかも、なんとさらに近くの木からガサガサと音がして後ろに誰かが落ちてきて、ぼくは耐えきれずおもらししてしまいました。
「えぇぇえ?!ど、どうした?!俺のせい?!って、いやぁあああ!この子確か用具委員、俺死亡ぉおおお!」
「ふぇ…?」
知らないせんぱいは突然叫んで、次の瞬間にはおもらしして汚いぼくを、そんなこと全然気にしない風に担いで走り出していました。
怖かった湖が遠ざかっていって、それより助けてくれたせんぱいが気になって、ドキドキして、気づけばぼくは恋に落ちていました。「そのときから、ぼくは苗字せんぱいが…。苗字せんぱいを見つめていた時間なら誰にも負けませんっ!」
「待ってくれ。それは俗に言うつり橋効果だ」
確かに、その件に関しては俺の記憶にも残っている。だってあれ、マジで死ぬかと思った。とりあえず自分の部屋で下の世話(下品な意味はまったくない!)をしてやっている間も、ここで襖が開けられたら死ぬと思って超高速で頑張ったし、部屋にいるだけでもマズい気がしたから速攻で一年長屋に送ったし。
その全てが最悪な方向に向かっただと?!
「えっと、そうだな…いや、でも俺はお前のこと好きじゃ…」
途端に、背筋に盛大な寒気が走った。振り向きたくはないものの、ゆっくりと背後を振り返れば――
(断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す断ったら殺す)
見なければよかった見なければよかった見なければよかった…!木の影から殺気だだ漏れで此方を見ていらっしゃる食満先輩超怖ぇええ!断っちゃ駄目なんですか?!だってアンタ、手出してもキレるんでしょ…?!手は出さずに断るなと?!んな無茶なっ!でもやらなきゃ俺が死ぬ!三秒後には確実に…!
「付き合おうか、下坂部君。健全に!健全な、ね!」
「はいっ!」
下坂部君が顔を真っ赤に染めて頷いたので、俺は蒼い顔のまま朗らかにHAHAHAと笑った。
モブな俺としては、今後この関係が死亡フラグの一番立たない自然消滅で終わってくれるのを切に願います。
お題:
花洩様より