私は砂糖菓子

「ぅう…っひ、椿、さぁん…っ秋葉さぁん…うえっ、ふぇええん…!」

気配が消えた瞬間、その場に崩れ落ちて泣いた。好きな人の前とか遠慮とかそんなのさえ今は考えられない。
二度と会えない。死別ではないのに、幸せを願う以上の何ももう出来ない。彼女の死体も魂もこの世には存在しない。

「秋葉、ざん…秋、葉…秋葉ぁあ…!」

ぐちゃぐちゃにただひたすらに秋葉さんの事だけを考えて両手で顔を覆いわんわん泣いていると、いつの間にか私に視線を合わせるようにしゃがんでいた立花先輩が優しく私の手を掴んで退かした。
八つ当たりに睨むように顔を上げると、端正な顔が近づく。

「…」
「ッ痛!な、何故突き飛ばした?!」
「今そういう場面じゃないぃい…!」

思いっきり突き飛ばした私に抗議してくるそっちの考え方の方がわからない。確かにさっきは最後だから彼女の望みのためにと私から無理矢理したけど、今こんな泣き喚いている私にしなくてもいいと思う。

「お前どれだけあの女が好きなんだ…くそ、これではまた昔と同じじゃないか…」

苛立ったように何かぶつぶつ呟いている立花先輩に、怒りたいのはこっちだと視線を逸らすように蹲った。…まぁ涙は止まったけど。

「私が居るだろう?」
「…そうですけど…秋葉さんは親友だもん、立花先輩とは違うもん」
「何であの女は名前呼びで、私は苗字なんだ?そもそも私以外の六年さえ名前呼びなのに何故、」
「っだからそういう場面じゃない…!」

的外れな話を始める立花先輩に声を荒げながら顔を上げ、武器を投げるのはさすがに嫌なので手拭いを放り投げた。普通に受け止められたけど。そこは受け止められても受け止めないで欲しかった。
…だけど、何か知らないけど拗ねてる立花先輩を見ていると、しょうがないから私が折れてあげるかって気持ちになる。何だかんだでずっと片想いして来た相手だもんね。

「私は秋葉さんより立花先輩選んで、付いて行こうなんて最初から思わなかったんだから…泣くぐらいいいじゃない」

完全に優しい言葉を掛けるのはちょっと癪だから責めるように言った。でもそんな私の言葉に心底嬉しそうに笑うから、やっぱり私は自分の選択が間違ってなかったと確信せざるを得ないんだ。

「仕方ない、ならば許すしかないな」
「うん、三日三晩は泣くから…」
「待て、それは泣き過ぎだ」
「泣くから」

止める立花先輩をキッと睨んで、それからまた涙を滲ませ眉を下げる。

「だから四日目には慰めてね」

情けない、きっと涙と鼻水でちっとも可愛くない顔で笑えば、立花先輩は気にせず優しく私を抱き締めた。

「三日三晩もずっと抱き締めていてやるさ」

好きになったのがこの人で良かった。



それから私は本当に宣言通り、三日三晩全ての事柄を放棄して泣き明かした。
四日目にやっと学園長先生に伊作先輩の件について秋葉さんの考えていた事を立花先輩と並んで報告しに行く時、ちょうど見掛けた伊作先輩が一年生の子達にそれはそれは優しく勉強を教えていて、その本性を知っている故のあまりの胡散臭さに苦笑した。

「立花先輩」
「ん?何だ?」

立ち止まった私と一緒に止まった隣の足音と仄かに軋んだ床の音がいつもより大きくて、見上げた顔に笑いかける。泣き笑いではない。
隣に居るのが彼女でなくても、私は後悔していなかったから。

「私、ちょっと前まで砂糖菓子のお菓子ってあんまり好きじゃなかったんですよ。あの砂糖の甘さが、好きになれなくて」

自分みたいで。


「でも、今は結構すきです」

それはつまり、きっと自分の事も。


「…報告が終わったら、町に砂糖菓子でも買いに行くか」
「はい!」

私は、自分の事もこの世界も大好きで、何より繋いだ手の先のたった一人を愛している。
憂鬱はもう吹き飛んだ。

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