四面楚歌

目が覚めて一番最初に見たのは、天女の嫌そうな顔だった。

「ちっ…とうとう本性を表したらしいな」
「あ、案の定面倒臭っ。…あらやだ、つい本音が。まあまあ立花君落ち着いて。君をうっかり殺しかける指示出したのは確かに私だけど、出血多量で痙攣し始めた君に治療施すように命じたのも私だから。今日この後起こる展開に免じて許しなさいよ」

目覚めたばかりではっきりしない私が悪いわけではないだろう程に意味のわからない事を口走る天女の言葉を無視して、気絶するまで私の自由を奪っていた縄は解かれていたので唯一囚われた時に奪い漏らしたんだろう焙烙火矢に火を点けその顔面に向けて思い切り投げた。

「あっぶないな。仙蔵、女の子の顔に向けて爆弾なんてダメじゃないか」
「え、それ伊作が言うの?」

それに女の子って歳でも…ああ、女はいくつでも女子なんだっけ?50、60代の奥様方も女子会開いてるしね。
そんな相変わらずネジの飛んだ独り言を喋り続ける天女より、私が全力で投げた焙烙火矢をいとも簡単に一切の躊躇無く受け止め手で握り火を消した伊作の方に視線をやった。
散々された拷問紛い…いや、拷問を思い出し、自然と身体が強張る。縛られていた縄は解かれたとはいえ、まだ身体は血が足りないのか上手く動かせない上丸腰なんだぞ。逃げ切れる、か?

「…仙蔵、たぶん今はもう安全だから、んな気張るな」

一瞬、緊張を解きかけた。
伊作がああも狂っていたんだ。私を此処まで連れて来た同室の、努力家で熱血で要領は大してよくなくて強情で短気で喧嘩ばかりよくして勝気な、鍛錬馬鹿が…安全なんて保証はないだろうが。

「悪かったよ。仙蔵を裏切るような真似しちまった」
「…今、お前が敵じゃない証拠はあるのか?」
「んなもんねぇよ。ただ、俺はお前と白雪が幸せになって欲しいと…思って、る」

自分で言って照れている文次郎は大層気持ち悪かった。…確かにいつも通りに見えるが。
…私と白雪が、幸せに?その言い方だと変な誤解を招きかねないだろうが。アイツは私を嫌いだし、私もアイツが嫌いなんだぞ。それに、何故今アイツの名前を出した…?


小屋に閉じ込められた時、一瞬私は何を考えた?もしかしたら、と、何を…、!

「っ!」

答えを弾き出すより先に、勝手に目が小屋中を見回し探した。すぐに見つかった床に伏すその姿に、思考は結局答えを出せないまま止まる。気づけばその近くまで行き某然と見下ろしていた。脈はある。息もしている。見える範囲に怪我はない。
だが、それさえもう関係無く頭は熱く冷えていて。

「白雪ちゃんが嫌い、ねぇ…?立花君って本当嘘下手よねー」

私は冷静だ。故に、お前を今一秒でも生かすのは得策でないと判断する。
今、私は武器を持っていない。だが、武器ならある。

私は横たわる白雪が握っているくないに、手を伸ばした。殺す。

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