隣の芝生は何色だ

目を開けてすぐ、後頭部に痛みが走り次いで何が起こったのかを思い出した。
そうだ、部屋で作法の書類を書いていたら文次郎の奴がいきなり頭を…どういうつもりか知らんが、この貸しは高くつくぞ文次郎。

室内を見回すも、薄暗い何も無い小屋だとぐらいしかわからない。いやに異臭が鼻につくが…。
手足は縄抜け出来ない縛り方で強く縛られ座らされている。まぁ、武器こそほぼ盗られたようだが縄さえ解ければこの私だ。脱出は容易いからな。敵ながらよくわかっていると言ったところか。

「……天女か?」

近頃の文次郎の言動、行動でおかしかった事はそれぐらいしか思い当たらない。
だから私はアレはおかしいと、警戒しろと言ったんだ。アレは自分の目的を果たす為なら手段を選ばない類の女だ。アレの纏うあの空気…きっと、本当に手段は選ばない。
でないと実行は文次郎にしろ、この私を監禁なんてしないだろう。これだけで天女は既に処分に値するだけの罪は犯しているんだからな。

…そうだな、実行は文次郎なんだ。私がくだらない事まであれこれと考える必要はない。それに、あの女の目が節穴でどうなった所で…私には関係ない。

……ない。

「やぁ、仙蔵」

突如小屋に一つだけあったドアが開かれ、いきなり射した日光に目を細めていると聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。

「…伊作?」
「うん。あはは、何でって顔してるね」

よく知る顔の同級生で友人は、ドアを閉めると笑顔で私の元まで歩いて来て目の前にしゃがむ。
…此処に私を閉じ込めたのは、天女の指示だったはずだろう?伊作は、天女に対して敵対的だったはずだ。ああ、その通り。わからない。何故。

「隣の芝は青い」
「…は?」

突如意味のわからない事を呟いた伊作に、眉を寄せる。

「でも、それでもやっぱり羨ましいものは羨ましいよね」
「…お前は、さっきから何を、」

瞬間、息を止めた。
私の首の皮一枚を切った伊作の投げたくないが、壁に刺さる音がする。伊作はいつも通り笑っていた。

「憎たらしいものは憎たらしいよね」

目を開き口元だけを大きく弧の形に歪めた伊作の瞳は、瞳孔が開き切っていた。

何だ、これは。

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