天女様の優しさ

善法寺伊作。
私が一番危険視している人の名前。

…落ち着け、私はやれる。怯むな。恐れるな。
握っているのは私の方だ。


「あ、潮江君!おはようございます!」

潮江君は私を見て、隣でまだご飯中の白雪ちゃんに目を移した。

「白雪、少し椿さんを借りてもいいか?」
「へ?」

私がきょとんとした声を出し、潮江君を見るも潮江君は白雪ちゃんから視線を逸らさない。

「…私が聞いている前で、出来ないお話ですか?」

白雪ちゃんがお茶碗の上に箸を置き、目を細めて潮江君を見る。ぴりっとした空気が漂う。
そこで私ははたと、今思い出したと白雪ちゃんを制するように彼女の前に手を出した。

「あ!あー、あのね!たぶん私が白雪ちゃんを応援している例の件のお話だと思います!」
「…ぇ。ええっ?!や、あ、ああの!椿さん?!文次郎先輩にお話になられたのですか?!」
「ううん、それに関しては前から知ってたみたいだけど。ね?」
「…まぁな」
「えぇええええ?!」

普段お行儀良くご飯食べてるのに、動揺して食堂のおばちゃんに睨まれるぐらい叫んでテンパる白雪ちゃんかわいい。もぐもぐ。
真っ赤になって沈んだ白雪ちゃんに周囲の様子がそれはもうあらゆる意味でおかしいけど、しばらく見ていたい気もするけど、仕方ない。

「そういう訳だから、ちょっとだけ行ってくるね?」
「……はい、お気をつけて」

潮江君の後ろを歩く事数分、知らない長屋、いや小屋に着いた。

「此処は?」
「特に使われていない場所だ。で、話は何だ」

潮江君から話し掛けて来たのにー。まぁ、敬語使ったら話があるって合言葉紛いを決めたのは私な訳だけど。
私は埃っぽい部屋に、これは座るのは無理だな。そういう所に気を遣える男はモテるのに。立花君なんか私の事大っ嫌いだけど自然とそういう気は回せるからモテるんだぞ!と一通り失礼な全く関係ない事を考えた後、落ちていた扇子を拾った。ゆっくりと開く。

「へぇ…椿の花の扇子。綺麗だね。此処使ってないんだよね?貰っていい?」
「おい」
「駄目かぁ…」
「勝手にしろ。だからとっとと話せ」

勝手にしろ?……ふーん、成る程。この埃っぽい部屋の中なのにこの扇子はまだ綺麗で、扇子は使い込めば使い込む程締まらなくなるのにこれは綺麗に締まる。なのに、持ち手の部分が大きな圧力を加えたように少し曲がってる。
でも例えそうだとしてこれ以上潮江君の機嫌損ねるのも難だし、優しい私は有難くもらってあげよう。

「じゃ、本題ね」

パチン。椿の花の扇子を唇の前で閉じ微笑む。

「善法寺伊作を巧く使おう。これは軽い賭けだけど、ぶっちゃけ潮江君は演技に向かないから、あれぐらい本気でヤバい人が一人居た方が――」

軽い賭け?とんでもない。軽く言ったけど、アレは相当狂ってる。
…でも、それぐらい勝てなくてどうする。

一番は私が幸せになりたいだけ。でも、悪意は一生根に持って、恩は返す人間なのよ、私は。

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