この日々は砂糖菓子

好きな人の前でだけ可愛げが失せるどころか氷点下だった私の所に強力ライバルこと秋葉さんが落ちて来たあの忘れられない日の一つから、丁度二年が経った。
最初はぎこちなかった仙蔵さんとの関係も流石に……ちょ、ちょっとは慣れた、よ?うん。

「華帆」

とか思った傍から、未だに名前を呼ばれるだけで心臓が跳ねる私の身体はいい加減にして欲しい。忍術学園時代、どれだけ苦労させられたか。

「仙蔵さん、お久しぶりです」
「…色々と気に喰わないな」
「えっ?!」

私は咄嗟に自分の格好を見下ろした。
忍務帰りの忍装束は、血こそ飛んでいないものの血臭が仄かに染み付いている。髪も頭巾をしていたし激しく動いた為に整っているとはいえない。勿論化粧や装飾なんて皆無だ。
…!こ、これは女として色々とダメだったかもしれない…!どう考えても、三週間ぶりに会える時間を少しでも長くしたくてそのまま来た事が仇となっている!

「ひゃ、百年の恋も冷めてしまいましたか?!」
「は?」
「すみません、今すぐ帰って出直して来ます!」

逃げるように走り去ろうとした私は、装束の後ろ襟首を掴む形で止められた。思わず転びそうになって、態勢を整えてから眉を下げながら首上だけで後ろを振り返る。

「立花先輩、ひどいですー…」
「いきなり逃げるからだ。それに呼び方」
「あっ」
「二年だぞ?いい加減慣れろ」
「…はい」

自分でも確かにそれは思うんだけど、咄嗟に出る名前は立花先輩、なんだよね。くのたま時代、立花先輩と口に出せない分心の中で鬱陶しい程連呼していたのが原因だとは思うんだけど……これは墓場まで持っていこう。
襟首から離された手に、とりあえず逃げるのはやめて仙蔵さんと話し合う為に向き合った。

「私が気に食わなかったのは、お前がくノ一になった事と恋仲でありながら挨拶が久しぶりになる程会えない事だ!」
「へっ」

予想だにしなかったお怒りの内容に、きょとんとして仙蔵さんをじっと見る。

「だってせっかくくのたまとして優秀に卒業したんですから、くノ一にはなりますよ。久しぶりなのは…お互い仕事忙しいですし」
「…そもそもだ。元々行儀見習いなのに何故卒業まで学園に居た?」
「それは…」

仙蔵さんが居たから。きっと傷つけたとわかっていて、一人で逃げたくなかったから。…。

「ど、どうせ何処かには就職するんですし」
「くノ一以外にもあっただろ」
「私今の仕事結構気に入ってます」
「ほぅ…?他に就職する気は無いと」
「…」

無言で肯定した。譲る気はないので、むーっと視線で何とか仙蔵さんへの説得を試みる。

「はぁ…わかった。仕事は続けていいから私の所に永久就職しろ」
「っ本当!…で、す?……え…え、え、えぇえ?!た、立花せんぱ、それ、え?!」
「お前も立花だぞこれからは」

顔を真っ赤に染め上げ落ち着きない、今にも心臓爆発しそうな私と反して、仙蔵さんは薄い笑みを浮かべ余裕の表情だ。
一つ深呼吸して冷静を心掛ける。落ち着け、落ち着け。

「け、決定事項ですか?」
「ん?嫌なのか?」
「……」

そんな事…あるはずないじゃないですか。
私は大きくため息を吐いた。ああ、さっきまで絶対に譲る気は無かったのに、全部手のひらで転がされている気分だ。

「わかりました、仕事辞めてきます」
「良妻だな。賢母にもなってくれると有り難い」

睨みつけてみるも、真っ赤な顔のままじゃ自分でも思うけど何の凄みも無かったらしく、笑顔で頭を撫でられた。ちょっと!私、今汗かいてますよ!汚いですよ!

…はぁ、一生私はこの人に勝てないんだろうな。


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