「白雪ちゃん、一週間やったらいい加減慣れた?立花君に挨拶してるって実感は湧いてる?」
「じゃ、若干」
ただ今早朝、椿さんの部屋にていつもの作戦会議中です。
椿さんには本当に頭が上がりません。私、我ながら事立花先輩に関しては驚く程面倒臭い性格なのに、椿さんは根気強く付き合ってくださって…!
「じゃあ次は、立花君の顔は見なくてもいいから五感封じないで挨拶しようか」
「…え、無理です」
「ちょっと考えてみて。今までとあんまり変わらないよ?」
幼い子供に言い聞かせるように椿さんは優しい顔で首を傾げた。
変わらない…かな?顔は見なくていいんだし、ただ、耳が聞こえるだけ?
「で、出来ます!やってみます!頑張ります!」
「うん、よしじゃあその勢いのままに行こうか」
「はい!」
自分を勇気づける為に今までと同じように椿さんの手を握れば、椿さんも笑顔で握り返してくれた。二人手を繋いで忍たまの六年長屋まで歩く。
私はやれる、頑張れる。立花先輩が好き。だから頑張りたい。だから頑張れる。
「居たよ」
「っはい」
大丈夫、好きって言うんじゃない。挨拶するだけ。静まれ心臓。
「立花、先輩おはよ、ございます…」
…な、何今の自分の一寸先の相手にも聞こえないような小声。
ダメだ、椿さんがせっかく付き合ってくれてるのにこんなんじゃ。顔上げろ。私はやれる。
「おはようございます…っ!」
最早半泣きだったけど、私はちゃんとその綺麗な顔を見ながら言えた。
何故か椿さんも私と繋いでない方の手で自分の口元を覆いながら目を潤ませていた。椿さん、私やりました…!
「…で、次は何だ?」
え?
立花先輩の顔をもう一度見るとその目は冷めていて、くだらないとでも言いた気で、鬱陶しそうに椿さんを見ていて、え、あれ?なん、で…?
「次はって?…うーん、しいて言うなら挨拶に一言二言足して話せるようにするかなぁ」
「楽しいか?」
「…何が」
立花先輩のピリピリした空気に、椿さんも笑顔を崩して真顔で立花先輩を見た。
何で、こんな一触即発の空気…?
「…白雪は私に挨拶なんてさせられてそれでいいのか?」
「えっ、え…?」
何の、話?うっあ、私の事見ないで。頭変になる。
「お前は私が嫌いだろう?」
違う、違います。ずっと好きでした。今も好きです。
そんな、冷たい目で見ないで。
…ああ、今まで私こんな目で立花先輩見てたのか。そんなの、嫌われて当たり前。嫌わない方がおかしい。
泣いたらダメだよ。立花先輩が悪者みたいな空気になる。
私が全部悪いんだから、ここで泣くのは卑怯だよ。
「っそう、ですよ…」
私なんて、好きな人に嫌いかと聞かれて肯定しか出来ないんだから。
ああ、もうしんじゃいたい。