作法委員長の苛立ち

あり得ない事が起きた。
不幸中の幸いは、目撃者が一人な事か。

「あー…なんだ、その、良かったじゃねぇか」

私はずっと走るような速度で歩いていた足を止め、そう言って来た同じ学年と組で同室の馬鹿で、唯一の目撃者を振り返った。
その姿はもうだいぶ遠方だ。しかも偉く苛立つ顔をしている。

「…文次郎」

私は俯き、肩を震わせた。
文次郎が慌てたように駆け寄って来る。

「大丈夫か…?」
「一つ、頼みがある」
「何だ?」

顔を上げる。ああ、やはり――


「一発殴っていいな?」
「もう頼みじゃねぇだろそれ?!」

振り被った拳はそれにより生じた猶予時間のせいで間一髪避けられた。…ちっ。

「何でだよ?!」
「貴様が悪い。…壊れ物を扱うかのような表情をしおって」
「…じゃあ単刀直入に聞くけどよ、お前何で白雪に会ってからんな怖ぇ顔してんだよ…挨拶されただけじゃねぇか」
「挨拶されただけ?」

だけ?そう思う奴が、この学園内に一人でも居るか?したのが白雪で、されたのが私なのに?天変地異の前触れと言っても過言じゃない。

「少なくとも、怒る事ではねぇだろ」

何を言っているんだ、私は怒っていない。

「天女様にも、その策にあっさり引っ掛かるお前にも呆れているだけだ」
「は?策?」

はぁ…何だコイツ、本当に解らないのか?学園一ギンギンに忍者しているのではなかったのか?
私は呆れを隠さず文次郎を見た。

「白雪が、何の理由も無く私に挨拶するか?」
「…仲直りしてぇのかもしれねぇだろ」

私は馬鹿な事を抜かす文次郎を鼻で笑う。

「だとしたら、笑える程に今更だ」

まぁそんな事は当然、あり得ないが。
私の顔を見た文次郎は、以後何かを思案するように、黙りこくった。
白雪は私の顔を見るのも嫌らしいからな。何の策にしろ発案はあの忌々しい天女だろう。あの時はよくも好き勝手自分の妄想を語ってくれた。

くだらない妄想に巻き込むには、私と白雪は絶対的に適さない。
私は白雪が大嫌いで、白雪も私が大嫌い。それだけが共通する真実なのだから。

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